ナツはこきりと首を鳴らした。
「お前らだって、部活入ってねえだろ?」
「私とルーちゃんは文芸部だよ」
言いながら、レビィはそういえばそうだった、と思い出した。最後に部室に顔を出したのはいつだっただろう――記憶の糸を手繰っても、部長とお茶を飲みながらおしゃべりしたことしか出てこない。
ハッピーが耳をぴるぴると動かした。
「え、文芸部?」
「部活なんて行ってんの、見たことねえぞ?」
「あー、本読んでるだけだから…部室はあんまり行かないんだ」
両手を上げて見せると、ナツとハッピーは微妙な顔をした。
「それ、部活なのか?」
「うーん、まあ、楽しいよ」
少しだけ考えて、言葉を濁す。
文芸部は詩や小説を読むだけでなく、創作するのが主な活動だ。世に出回らない生まれたての小説を読みたくて、レビィは入部している。
ルーシィの方は、職業としての小説家に興味を示しているのだが――彼女がそれを周りに知られたいかどうかはわからないので、レビィは黙っておくことにした。
「で、グレイも助っ人に呼ばれたの?」
「そ。オレ一人で良いのにな」
バスケ部弱小だから、と笑うナツに、レビィは半眼を向けた。
「私の幼馴染もバスケ部員なんだけど」
「そうなのか?そりゃ悪ぃ」
「今?」
「いあ、来月。つってもすぐだし、一応、何回か練習参加しとかなきゃなんねえし」
ナツは面倒くさげに頬を掻いた。
「また今度で良いか」
「あい」
頷き合う一人と一匹に、レビィは笑顔を用意した。さようならの挨拶が来るのを待つ。
がたん。ざかざか。がたん。がたた。
掃除当番の動きが、空気を揺るがす。
ぼんやりと佇む彼らに、レビィは瞬きを三回した。
「……帰らないの?」
「いあ……ルーシィ、遅ぇなと思ってよ。腹壊してんのか?」
「トイレじゃないよ。ルーちゃんも帰った…て、いうか」
「え?だってアイツ、昨日の夜、レビィと何か買いに行くつもりって言ってたぞ?」
「昨日の夜?」
違和感があった。彼女が購入を決めたのは、少なくとも昨日の夕飯の、後のはず。
レビィは目を据わらせた。
「また侵入してたの?」
「あ。しまった」
はっきりとそう言ってから、ナツは斜め上を見上げた。
「何のことだ?メールでだよ、メールで」
「凄い棒読み」
「う」
たまにナツが部屋に入ってくる、とは聞いていたが、昨夜もそうだったのか。
ナツはひくりと頬を引き攣らせて、頭をがしがしと掻いた。低く唸るように、言う。
「ルーシィには言うなよ」
「オイラ達、誰かに知られたらもう部屋に入れてあげないって言われました」
「私は知ってるから」
「え、そうなのか?」
「なんだー」
ほっと安心した様子の一人と一匹に、眉が下がる。止めなさい、とは言えないほど、彼らが楽しみにしているのが伝わってきた。
きっとルーシィも、強く断れないのだろう。
「なんで一緒に行かなかったんだ?」
ナツとハッピーが同じ角度で首を傾げる。
レビィは指先で窓枠を叩いた。にやりと目を細める。
「私、委員会あるから……グレイと行ってもらった」
「へー……え?」
「あ、ほら」
校門から、ちょうど二人が出て行くところだった。遠目から見ても、ルーシィが笑っているのはわかる。
レビィはほっと胸を撫で下ろした。二人の後を水色の髪をした少女が一人、物陰に隠れながらかさかさと付いていくが、それは仕方ないか、と目を瞑る。
「じゃあオレらも行くか」
「あいさー!」
「え?」
「じゃあな、レビィ!」
「また明日!」
「あ……」
どう引き止めようか迷っているうちに、相手は居なくなってしまった。
「……」
レビィはもう見えなくなった親友達の方角へ目を向けた。このまま窓際に齧り付いていたいが、そろそろ移動しないといけない。
「ごめん、ルーちゃん」
呟きを口の中で味わって、レビィはそっと肩を落とした。