翌日、それを見付けたルーシィはぱかん、と口を開けた。
「な……」
「ん?」
「何よ、それ!?」
身を乗り出して、ナツのマフラーを引っ張る。今は休み時間――もうすぐにでもチャイムは鳴りそうだが、そんなことに構っていられない。
ぐえ、と鳴いたナツを手繰り寄せるようにして、ルーシィは彼の手にしたスマートフォンの画面を凝視した。アイコンの並んだそれは、彼女が先ほど目にした衝撃的光景ではない。
ナツは絞まったマフラーに手をかけて、けほ、と軽く咳き込んだ。
「なんだよ、乱暴だな」
「アンタに言われたくない!てか、何、さっきの画面!?」
「あ?」
きょとりと瞬きするその目には、不思議そうな色しか見当たらない。見間違いかしら、と怯んだところで、ハッピーが右手を上げた。
「ナツ、ルーシィの写真」
「ああ」
ナツは画面を消して、もう一度点けた。それをルーシィに見せてくる。
「これか?」
「そっ、それ、なんで……あたしにしてんの?」
大声が出そうになって、慌てて声を落とす。
ロック画面の背景が、昨日撮られたルーシィの写真になっていた。
「これなあ」
ナツは悪びれもなく首を傾げた。
「なんか弄ってたらなったけど、直し方わかんねえんだ」
「……」
理由が予想の範囲外。ルーシィは思わず止まった息を無理やり再開させて、なんでもないように呆れて見せた。
「なんだ……直してあげるわよ、貸して」
ルーシィの手から遠ざけるように、ナツはスマートフォンを庇った。
「別に誰も困らねえし、良い」
「良いって…」
「このルーシィぽかんとしてて面白いし」
「ちょっ…せめて撮り直して!」
「ヤダ」
「イイ笑顔ね!?良いわ、今度はあたしがナツの油断してるところを撮ってやる!」
宣言したところで、それを待っていたかのように予鈴が鳴った。本鈴もまだなのに、気が早い教師が「授業始めるぞー」と入ってくる。
ルーシィは自分の席に座り直して、目を据わらせた。
「なんであたしの机に居るのよ」
「オイラここの気分」
「……なんか魚臭いんですけど」
「間違って食べないでね」
「生魚なんて食べるか」
ナツはちらりと振り返っただけだった。窘める気はないのだと悟って、ルーシィは教科書とノートを狭くなった机に開く。
動いた拍子にポケットのスマートフォンが足に当たった。
(……ちょっと待って。この先、ナツのロック画面、ずっとあたし!?)
グレイとの写真のように、他に誰かが写っていたわけではなかったはずだ。右手に持ったペンに力が入る。
ハッピーはゆらりと長い尻尾を振って、ルーシィの手首を撫でた。一際小さな声で、囁く。
「良いこと教えてあげよっか」
「え?」
「昨日の夜ね。ナツ、ルーシィの写真背景にするのに頑張ってたんだよ。説明書とにらめっこしてさ」
がったん、と大きな音を響かせて、椅子が倒れる。それをした犯人は気にした風もなくルーシィの机に手をかけた。青い猫を睨み付けるように、顔を近付ける。
「あっ、あれは直す方法探してたんだろ!」
返ったのは明らかな棒読みだった。
「へー」
ナツはハッピーの首根っこを掴んで乱暴に持ち上げると、今度はルーシィに向かって唾を飛ばした。
「ホントだからな!」
「え、あ…う、うん」
「ナツ・ドラグニル」
教師の声は冷たかった。
「職員室な」
「だっせ」
ぼそりと呟かれたグレイの一言に、また全てが有耶無耶になると――今日は残念に思いながら、ルーシィは長く息を吐き出した。