***07 一セットの中にジョーカーは二枚ある。 レイチェルは急くあまり、その威力を甘くみていたのだ。自分にだけは、幸運が来るとどこかで思っていたかもしれない。とんでもない自惚れだった。 自分は幸運の女神ではない。ましてや運命を操ることなど出来もしない。 唇が震えるのを堪えるため、拳を握る。 なんと愚かなのだろうか。 悔しかった。とても、今まで生きていて感じたことがないほどに。頭の芯が燃え尽きてしまうのではないかと思うほどに。 「さぁ、お嬢さん。貴方のコインはまだあるはずよ。手の内をもっと見せてごらんなさい、全て丸裸にしてあげるわ」 言葉では応じず、レイチェルは喉を鳴らす。魔女はその顔を見て、笑みを深める。 「私は貴方が大嫌いよ。だから、貴方を決して認めない。貴方の才能、その賭けの原石、粉々になるまで打ちのめしてあげるわ」 「わがままなお人ですのね……。そんな傲慢、まかり通るはずありませんのよ、それを私が教えてさしあげますわ」 苦し紛れに、絞り出すようにレイチェルはそう言った。恐ろしくて後ろを振り向けない。ダニエルがどんな顔をしているのか、その面にどんな失望を浮かべているのか、確認するのが恐ろしかった。 これで失望されていたら。 自分はもはや賭博師としての誇りに満ちたダニエルを取り戻すことができない。彼が失った何かを取り戻すためにこうしてきたと言うのに。 魔女はふわりと、胸元を強調するように身を乗り出した。匂い立つような女の色香が漂ってくる。 「さぁ、このワンセットは貴方の負けだったわ。次はどうするのかしら?」 魔女はするりと山札を指差した。そこにはほとんどワンセット分のカードが残っている。 「ふふ、決して勝者だから言うのではなく、年長者としてもう一度言わせてもらうわ。……お逃げなさい、お嬢さん。貴方とは関係のない勝負じゃない、後ろの師匠に座を譲りなさいな」 「いえ、それはできませんわ。私はおじさまのためにこうしていますの。だから、こう言わせていただきます」 すっと思い切り息を吸い込み、ぎり、とテーブルに爪を立てる。顔を鮮やかな憤怒で彩り、ぴんと真っ向から向かい合うために背筋を伸ばした。 「ふざけないでくださいまし……!」 再び、叩きつけるように吐き出した言葉は、紛れもなく反撃の狼煙であった。 |