レイチェルの手札はハートの4、ハートのJ、ハートのK、クローバーの6、スペードの8があった。
 どうするべきか、とカードの縁をなぞる。
 ここで最も望むのはジョーカーだ。
 それは使い方次第で大きな力になるカードだ。全てのカードの代替品として使用できるが、今の手札では心許ない限りであった。
 レイチェルはそっと、今まで出た手札を思い返す。ジョーカーはまだあるはずだ。
 それを引けば、ジョーカーで構成されたワンペアが出来る。それを得られれば、ほとんど負けることはないはずだ。よくて引き分けだろう。

「コール、10」

 魔女の言葉に応じて、レイチェルは半ば祈るような気持ちで同じだけのコインを積み上げる。

「三枚、チェンジ」
「三枚チェンジ」

 最後の一枚だった山札が補充されて、魔女の手札の後にレイチェルの手札が来た。
 揃った手札は、ハートのA、ハートのJ、ハートのK、スペードのK、そして、ダイヤの7だ。
 ジョーカーは逃したが、それでもワンペアだ。負ける可能性というのは格段に減った。だからこそ、とレイチェルはいう。

「レイズ、20」
「いいわ、乗りましょう」

 魔女は何も感じさせぬ顔で笑い、コインを上乗せした。それは底知れぬ笑顔だった。

「コール」

 レイチェルはここまで来て、逃げてはならぬと自らに言い聞かせ、口を開く。

「コール」
「ふふ、楽しいわ。とても、楽しい」

 魔女は心底と言った調子で笑い、艶めいた唇を動かした。

「――ショーダウン」

 魔法の言葉を述べるように彼女は言い、手札を見せてくる。その手札はジョーカーが二枚、スペードのKとダイヤのK、クローバーの4だった。
 クアッズ。またはフォー・オブ・ザ・カインド。
 同じ数字を四枚揃えたカード。それは間違いなく、レイチェルの手札よりも強かった。

「……」

 レイチェルは初めて自分の吐息が震えるのを感じる。かろうじて、指先が震えるのを堪えた。

「私の勝ち、ね」

 魔女が笑う。それは、それは楽しげに。蜘蛛の巣にかかった獲物をいたぶるように。
 ただ、レイチェルは敗北よりもひどく打ちのめされた気分でいた。自分の読みが間違ったのだ。いけると思った賭けで、自分の実力よりも相手が上だったのではない。
 ――これはケアレスミスだった。





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