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「そんなの誰でも答えられるじゃん。
答えは"水"。これしかないよ」
すると彼女は子供が悪戯をする時のように楽しそうな顔をして
「ぶっぶー!違うの」
と答えた。
それ以外の答えがあるのか。
氷が溶けたら水になる、これ以外の答えなんてある筈ない。
すると彼女は疑問を払拭するように言葉を続けた。
「確かにそれは答えだけど私が望む答えじゃない。当たり前の答えなんて問題にもならないよ」
変わらず得意気な顔で笑う彼女。
当たり前ではなく違う答えを導き出す思考。
そんなものを持っているようには全く見えなかった。
どこにでも居るような高校生。
花宮みたいに飛び抜けた頭脳を持っているような会話でもない。
だけど、何故か俺の頭には答えを言う彼女の顔が焼き付いて離れなかった。
「答えは"春"。
暖かくなって雪が溶けたら春になるんだよ。
確かに水にもなるけど、それしか考えられなかったら視野の狭い人間になっちゃう。それじゃつまらないからね」
‥思いつきもしなかった。
おかしい答えではない。確かに春になって気温が上昇すれば雪は溶ける。
負けた。そう思った。
勝負などしていなかったが、頭の良し悪しではない何かで負けた気がした。
「ホント霧姫には驚かされるよ‥
いったいどこからその考えが生まれるのさ」
「えー?普通に頭からだよ」
"霧姫"。
この時初めて彼女の名前を知った。