龍と観音


空虚と化した
殺伐とした心の中に
果てしなく広がる
荒涼たる寂寥に包まれた
一枚の絵がある
白と黒だけで描かれたモノトーンの最果ての世界は
静かに
だけど激しく畝るようにとぐろをまき襲いかかる

それは心を圧倒的に支配し
限り無く神々しく輝きを放ち
限り無く暗澹たる闇を呼び寄せる





独り孤独の荒波に
為す術もなく
龍はその身を荒ぶる神の如く漂わす
果てしなく続く
暗黒の闇の中
世界を破壊し
再生し
そして優しく包むように
 
 
 
やがてその孤独に身体が朽ち果てるまで
哀しい悲鳴をあげて
 
 
 
遥か彼方にまで続く
この暗い暗い世界の中には
ただ一片の救いもなく
そして龍自身も翻弄される
 
 
 
そう
どこにも救いはない
 
 
 
心を蝕まれて
汚泥に満ちたその空間を
ただ自身の持つ力だけを頼りに
激しい虚無の中を
それでも求める
救いを
 
 
 
 
 
それは
求めて止まない憧れだろうか


まるで異世界が拡がるように
ただ一筋の光が
迷える総ての者を導こうというのか
曇りなく煌煌と照される
それは悠久の時を越えて降り注ぐ道標
観音はただそこで総てを見下ろしていた
手を差し出すわけでもなく
悟りを説くわけでもなく
ただ在るべきことを
起こり得ることを
何もかもを
その一身を捧げ達観している



総てのことを包み込むかのように



怜悧な表情に
穏やかな大気
そう
何もかもが受け止められ
何もかもが昇華されるような
そんな錯覚



狂気狂乱で
あらゆるものを蹴散らして
やがてその安楽の世界へ辿り着けるなら

ただただこの深く暗い孤独も甘受しよう

咆哮をあげ
狂おしく彷徨い続け
やがてその深い深い闇に飲み込まれてしまわないように
その暗い暗い哀しみに自ら墜ちていくことのないように



龍は荒ぶる神の如く
観音は総てを受容するために



まるで
儚く揺れる蝋燭の灯火のような不安定な未来の中で

龍を導く観音のように

私は
誰かの救いになれるだろうか
この心を持て余し
ただその暗闇に翻弄される存在であっても
誰かの救いになれるだろうか



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