泡沫の切望


雨あがり
ほのかに薄紅さす
雨あがり
浄化され再生する
雨あがり

厚い重苦しい雲の層を掻き分けて
遠くから光が差し込んでくる
純粋に綺麗だと感じる心が在って
この密かに暗く蠢いた毒々しい心も
神の恵みを請けて
浄化され再生される日がくるのだろうか
深く深くため息つく

そこから見る世界は
空高く続く宇宙とは到底比べようもなくちっぽけで
その莫大な時間の流れの中の
ほんのわずかなものかもしれないけれど
自分自身にとってそれが総てで
それが唯一であるから
永遠に手の届かないその空に
夢現な憧れと憎しみを抱く





カナリアはいつまでも歌を歌い続けた
まるで吟詠詩人のように
限り無い大地に降り立っては
表情豊かに歌い続ける

激しく揺さぶり
永い眠りから覚醒するのを待つように
慟哭が続く

やがてカナリアは遥か彼方の地を目指し
羽根を力強く動かした



カナリアが飛び立った後の無音無色の広大な空間に
どこからともなくきついきつい香りが流れてくる
その何も見いだせない空間に
鮮やかに光り輝く一輪の百合の花

ここにいるのだと自己主張をするかのように
あたりにきつく
だけど甘くて優しい香りを振りまく

ここにいる
私を見てと無言のままに雄弁に語る
気高く美しいその姿が消えてしまうかのような
眩い光を放ちながら



そう
例え姿が見えなくても
在るべき自分が在るように



苦しくて哀しくて悔しくて
いろいろな感情で織ったこのどす黒い世界の中
何もかもがその毒気にあたり息絶えて行く中で
それでも
カナリアは歌い続け
百合は咲き続ける

例えいつか命果てることになろうとも
その毒々しい世界が総てで唯一なのだから
その中でその生命を謳歌する





雨あがり
ほのかに薄紅さす
雨あがり

この深い闇にも
浄化と再生は訪れ
穏やかな世界が広がる日がくるのだろうか

何もない新しい世界が広がった時に
そのカナリアはまた詩歌を歌いに降り立ち
新たな世界の芽生えを歌にのせ
次の地に飛び立つのだろうか
その百合は闇にも紛れない
その神々しい姿を見せ
新たな道を照し
迷った時の道標となってくれるだろうか



だけどまだ
そこに広がるのは
毒々しく織り成された絶対的な世界



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