さよなら、俺 / 02


 結論から言うと、俺はどうも生まれ変わったようだ。

 あの、気持ちよく漂っていた空間は母親の腹の中だったと言うわけだ。生れ出て怒濤の日々だった。意識は死んだ当時のまま、当然、年齢も重ねた意識で、俺がいくら本能のままに行動するような極悪人であったとして、赤ん坊のような無邪気さは持ち合わせていなかったものだから羞恥の日々で、それだけでもう一度死ねると本気で思った。しかもどんなに意志を伝えたくても、それは声にならずに泣き叫ぶだけ。シュールだ。

 考える時間だけはいくらでもあったものだから、何せ自分では何もできない、寝ているか食事しているだけなのだから、取り留めもないことを考えた。

 どうして自分が転生する羽目になったのか。

 前世の自分の行いの悪さは自覚済みである。殺されて死ぬなんて可哀想だとどこかにいる神様が思ってくれるはずもなく、どちらかと言うとこいつは害にしかならないのだから魂ごと抹消してやると思われた方が納得する。自分にはやらなければならない何かがあったかと言うと、それこそ刹那的な生き方をしてきて、そんなに大それた意義なんて持ち合わせていない。あの時強烈に死にたくないと願ったから、近くにあった腹の中に魂が飛んだのかと思ったけれど、それもまた違う。最後に人の役にたつなら本望だと思った。けれど、もしも生まれ変われるなら、と思ったのも事実。まさかたったそれだけの為に育つはずだった俺とは違う自我を殺して奪い取ってしまったのだろうか、と思えばいつまでたっても救われない。

 自分が転生した意味を知りたい。そう強く願うことは必然だったように思う。が、奇しくも簡単にその意味が分かってしまうことになるとは思わなかった。

 やることの無い俺は、新しい家族の観察をすることにした。俺の新しい母親は言わずもがな分かっているとは思うけれど、あの時通り魔に襲われた人だ。綺麗な人だと赤ん坊の俺から見ても思うわけだから、当然世間の人も綺麗な人だと言う。綺麗なうえに、雰囲気の可愛らしい人だ。父親は母親より随分年上の体格のいい人である。ロマンスグレーと言う言葉が似合うような渋い男前なのだが、性格は随分と子供だ。異常なほどの執着心で母親のことを愛している。いや、あれは母親だけを愛していると言ってもいいだろう。俺を見る目が恋敵に向けるような目だったから間違いない。父親は家に帰ってきたら母親を束縛する。家にいない時から束縛するような人だが、一歩家に入れば物理的にも束縛する。俺の世話をする母親に怒り出す始末だから親としてはどうにもならない。

 その状態をネグレストだ虐待だと言う術もなければ、決めつけるわけでもないが、これはちょっと怪しいなくらいに俺も感じるわけだ。もっとも前世の時に比べて“超貧乏”と付かないだけまだ大丈夫だと能天気に考えている俺は危機感が全くないのかもしれないが。

 前世の俺の家は超貧乏だった。今だから分かるが親はもっと生きることに必死だった。余裕のない中で俺を育て、だけど俺も必死にならないと生きていけないような状態で、殴る蹴る罵倒なんて当たり前の世界だった。それに対抗できるだけの力を自分も付けたから見るも無残な家族の姿が出来上がり、どうしようもないチンピラになった。けれど、今ほど空気が冷たかったことはない。

 今度の家はそこそこ金持ちのようだけど、妙に金を持っても駄目だなとどこかで見切りをつけた俺は、もう少し成長したら自分のことは自分で何とかしようと早々と決めた。



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