ストーカーとヤクザ / 07


 着いてすぐに仙醍さんに会えるとは思ってなかったけれど…… 僕は今ひたすら耐えてる最中だ。何に? と言うと、とにかく周りからの視線が痛いのだ。視線なんて可愛らしいものではない。こいつは誰や? と言わんばかりの光線と言うか、ビームと言うか、なんせ眼力が強すぎるのだ。別に悪いことをしてここに連れ込まれたのではないはずなのに、なんだか僕が悪いことをしたようなそんな重い空気が漂っている。て言うか、僕、被害者だよね? 確か。ストーカーされたのって、僕のせいじゃないよね? あぁ、なんかこの視線腹立ってきた。 しかも仙醍さん来ないし。組事務所に放り込まれた僕の気持ちも考えて欲しいよ。こんなに待たされるのだったらどこかファミレスか何かでコーヒーでも飲んでる方がマシだよ…… はぁ…… 視線が痛い。





 仙醍さんが登場したのは僕がもう耐えられないって思った頃だった。イライラがピークになり結構不機嫌な顔になっていたと思う。唐突に仙醍さんは事務所に戻ってきて、みんなが一斉に立って

「お疲れ様っす」

と挨拶する様は圧巻だった。

 僕? 僕は呆けてそれを見ていてさらに痛い視線攻撃を受けたけど。なんかこういう時に仙醍さんはやくざの組長なんやなぁって思う。僕が知っている仙醍さんは一回会ったきりで、あとはメールだったり電話だったりしたから、なんかそんなこと忘れていた気がする。僕も大概不機嫌になっていたけれど、現れた仙醍さんはさらに輪をかけた不機嫌さやった。なんか仕事で悪いことでもあったんかなって超のんきなことを考えていたら、ジロリと睨まれる。

 え? 僕、なわけ? いや、だから僕は被害者やから…… なんも悪いことしてないから…… とそんなこと全然考慮されていないですよね? どう考えても。

「優月、懲りたか?」

 えっ、何に? 思わず首を傾げた僕を呆れたように見て、

「ストーカーもバカにできんやろ。 だから言ったやろ? うちの若いもんつけるかって」

 うぅ、それを言われると…… 結局僕は事務所の中で延々三時間説教された。始めの一時間は仙醍さんの話をうなだれながらも神妙にちゃんと聞いていた。だって、ほんまに悪いと思っていたし…… 次の一時間は事務所にいる人達の目が気になってずっと俯いて恥ずかしくてちょっと情けなくて、それでも仙醍さんの話を聞いていた。こいつ、誰や? って言う不躾な視線は痛かったけど仙醍さんが隣にいるからと思えばそんなに怖くはなかった。ような気がする…… でも残りの一時間はふつふつと怒りが湧いてくる一時間やった。

 僕が悪いわけ? 僕は被害者やん? 僕にどうしろって言うん? それこそ今にもぷっちーんって来そうなくらいじわじわっとふつふつ怒りのマグマが活動を始める。

「聞いてんのか、優月」

 聞いてますともっ。聞いているからこそこんなに腹立ててるんやん。キレていい? いいよね? 我慢の限界だった僕はここがどこだかも忘れて目の前のテーブルをダンッと叩いて立ち上がり、

「僕は何も悪くないっっ! 帰るっ」

って叫んだ。もちろん腹の底から。すっきりしたぁ。

「どこに帰るんや?」

 激怒中の僕に暢気な言葉をかける仙醍さん。僕はこの事務所の中で一番短気なんは自分なんかもと思いながら、

「家っ」

って叫んで出て行こうとした。したけどそれはかなわず、僕の行く手はがっしりと組員に阻まれた。それで一層腹が立って暴れたら、

「優月、いい加減にしろっ。 お前、家帰ってまたストーカーに狙われたいんか? ん? 次は犯されるかもな。 今日かて若いもんつけてなかったらどうなってたことやら。 それとも、優月、……犯されたかったんか?」

 にやっと笑って酷い事をさらりと言う仙醍さん。僕は言われたことに耳まで真っ赤にして、口を水から揚げられた魚みたいにパクパクさせて悔しさと雪辱のあまり、次の瞬間にはざぁーっと顔を蒼醒めさせて、

「……お、犯されるって……」

とふるふるなりながら呟いた。仙醍さんはそんな僕に気を良くしたのか、

「お前のアパートは明日引き払う。 お前は、うち、や。 仕事も若いもんに送り迎えさせる」

と言い捨て、この話しはこれで終わりだと言うように煙草に火を点けた。僕はと言うと、言われたことがまだ理解できずに立ち尽くしていた。

 そうして僕と仙醍さんの奇妙な同居生活と付き合いが始まった。



終 




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