ストーカーとヤクザ / 05


 仙醍さんに送ってもらって自分のアパートに着くと、仙醍さんは当たり前のように僕を部屋の前まで送ってくれた。決して綺麗とは言えない鄙びたアパートで、ベンツがそこに止まった時はほんとに恥ずかしくて、仙醍さんとここ、不釣り合いすぎる。僕は思わず俯いてしまったけど仙醍さんは僕の頭に軽く手をのせて

「じゃあな」

と行ってしまった。なんだかちょっと寂しくて一人になった途端なんだか夢のようで信じられなくて、僕はぼんやり暗い部屋に足を踏み入れた。小さな部屋だけど僕がようやく手にいれた自分の城。





 僕が大学1年生になったばかりの五月、パチンコ屋のバイトから帰ると、家は無くなっていた。今でも忘れない。夜中に赤々と立ち上ぼる炎が僕の家を包み、消防が必死に消火活動をしていた。呆然と立ち尽くす僕を見つけた近所の人が何かを言ってくれたけどその声すら耳に入ってこなかった。次の瞬間、両親とまだ幼い弟のことを思い出し思わず駆け寄ったところで消防士に止められた。錯乱し叫び続ける僕を必死でとめて、やがて火の消えた家から見つかった両親と弟が運ばれてきた時、僕は泣き崩れた。

 朝、いつものように挨拶を交わして出て行った時、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。だけど衝撃はそれで終わらなかった。三人は火事で死んだのではなく、その前に殺されていたと判明した。刺し殺されてから火を付けられたと。疑われたのは僕自身。母親は父親の再婚相手で僕は確かに母親とうまいこといっているわけではなかった。だけどそれでも普通の家族になりたいってお互いが努力していたつもり。それでも疑われた僕はさらし者にされ、TVではおもしろおかしく語られ、結局逃げるように大学を辞めその時付き合っていた彼のところに転がり込んだ。

 そのほんの少し後、悩みに悩んだ末バーテンって職を選びその二ヶ月後にこのアパートに移った。彼の家を出て行って少しして、両親と弟を殺して放火したのはその彼だと分かった。やるせなかった。思い出したくもない。だけど……

 それから一週間、何事もなく日が過ぎていった。

 仙醍さんは結構忙しいみたいであれから一度も会ってはないけど、マメにちょくちょくと電話はくれる。ただそれが夕方だったり朝方だったりほんとにまちまちで、僕はいったいこの人いつ寝てるんやろ? と変に心配したり……

 それでもとにもかくにも一応は付き合っているっぽい形にはなっていて、それはそれで僕は妙な充足感を味わっていた。





 ことが起こったのは仙醍さんと出会った日からちょうど一週間たった深夜。

 仕事も終わり、またてくてく歩いている時だった。その日僕は思いの外疲れていて、とにかく忙しくて走り回るようにしていたからストーカーの存在をころっと忘れていた。ストーカーの存在を思い出した時には本当に近くまで来ていて、

(なんか、怖い)

と身震いするような恐怖を感じた。だってほんまにまぁ後ろにいる気配なんやもん…… 仙醍さんの忠告ちゃんと聞いとけばよかったなぁって思った時だった。

「ゆ、優月っ」

「ひゃっ」

 突然僕は後ろから抱きつかれ何故か口も塞がれる。

「っ、や、やめて、下さいっ」

 口を塞がれてうまく言葉にならないことがもどかしい。僕はそのまま引きずられそうになって、怖くて、悔しくて膝がかくかくした。こういうのを絶体絶命っていうのかなって漠然と考えた時だった。

「おいっ」

 僕に抱きついていたストーカーが突然引き剥がされ、バキッと豪快な音が後ろで響く。僕は前につんのめってげほげほいいながら後ろを確認しようとして、

「大丈夫ですか?」

と声を掛けられる。

「っ……だ、いじょう、ぶ……です、すいま、せん」

「すいません、遅くなって」

 後ろでは悲鳴があがっている。

「あの、あ……」

 誰か知らない人って思ったその人はどこかで見たことがある。

「烈、もうやめとけ」

 その人は僕を起こしながら後ろで殴っている人に声をかける。

 遠くからパトカーのサイレンの音が響いてきて誰かが通報したことに気付き、初めて周りを見ると心配そうに見ている人が夜中なのに結構いて途端に恥ずかしくなる。

「あ、あの……」

「仙醍組のもんです。オヤジがストーカーのこと気にしていまして、一週間、店の帰りだけはつかせてもらってました」

「ありがとう、ございます」

 僕はようやく安心して礼を言った。

 よかった…… 仙醍さんが気をまわしてくれてなかったら今頃僕はどうなってたかわからない。そう思うとガタガタ体が震えて今更ながら恐怖を実感する。走ってきた警察官が烈さんを連れて行こうとしている。僕は酷く焦って止めようとした。

「大丈夫です。あいつは組員ですが、叩いても埃は出ませんから」

「でもっ」

「男にストーカーされたこと、襲われたこと、言わなきゃだめになります」

「そんなん、いいっ」

 そんなことよりストーカーが許せないし仙醍さんに申し訳ない。

「待って、その人は何も悪くないっ。助けてくれただけなん」

 気が付くと僕は叫んでいた。



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