ストーカーとヤクザ / 04
仙醍さんは笑って僕を抱き寄せた。その手がいかにも優しくてなんだかすごく愛されているような気がする。まだ出会ったばっかりなのにもう長いこと付き合っているみたいな、そんな感じがした。
仙醍さんのその端正な顔がだんだん近付いてきて、僕はその獰猛な獣のような目とまるでホストかっていうくらいに綺麗な顔に見られていると思ったら、なんだか急に恥ずかしくなってそっと目を閉じる。
仙醍さんとの初めてのキスは、すごく柔らかかった。
触れるか触れないかというような、ほんとにそっと何度も何度も啄まれる。
僕がその優しいキスに酔ってもっと深くとねだるように仙醍さんの首に腕を回してギュッとすれば、それに答えてくれるかのように少しずつ、深くなる。
「……ん、ふぅ……」
口腔内をまるで何かを探すように深く長いキス。僕はだんだんと頭がぽやんとしてきて腕に力をこめた。微かに煙草のほろ苦い味がする。いっそ、このまま時が止まればいいのに…… 僕の顎をしっかりと上向きに支え止まないキスを落とす仙醍さんとの時間。僕はそれが本当に極上の一時のように思えた。この人が、僕の彼氏なんや。その時始めて実感した。
「……ふ……ぁぁ……ん……」
やがて苦しくなった僕は仙醍さんの胸を押し逃れようとする。仙醍さんはそんな僕に気がついてそっと離れていく。名残惜しくて手を伸ばせば僕の頭を自分の胸に抱きしめてくれる。肩で息を吐き、そのままされるがままにされていた。
そのままズルズルと体の関係ができてしまうのかな?
僕はどこかでそんなことを考えていたのに、というより諦めていた? のに、仙醍さんはそっと僕から離れた。離れはしたけどまたもう一度ギュッて抱き締めてくれて、僕は自分から言い出したことだったにもかかわらず、
『寂しい……』
と思っていた。
矛盾した感情を持て余し、どうしていいのかわからないでいると仙醍さんは苦笑して僕の頭をぽんぽんと軽く叩いて、
「なんも焦ることない」
ともう一度抱き締めてくれる。
「自分の信念持っている奴は好きや。優月は流されてそうなりたくない、ただそれだけのことや。次に会って、そういう雰囲気になったらそれでいいし、それでまだ引っ掛かるんやったらそれはそれでいい」
なって顔を覗き込まれて、僕は小さく頷く。大人な人。些細な僕のわがままにも真剣に向き合ってくれる、大人な人……
「……稜湧さん、嫌いになれへん?」
「あぁ」
「……嫌じゃない?」
「全然」
「……そっか、よかった……」
心配症やなぁって笑って仙醍さんはもう一度軽くキスをしてくれた。僕はこの人をすごく好きになっている。まだ全然何も知らないこの人を……
「おまえ、さっきのあれストーカーか?」
「……わかんない。わかんないけど、店でてからずっと付いて来た気ぃする」
「そうか……」
「……」
何かを考えている風な仙醍さんをみつめていると
「うちの若い奴つけよか?」
と思ってもみないことを言われた。
「いいっ。そこまでしてもらうの悪いし……」
あたふたと答える僕を無視して何か考えていた仙醍さんは、
「ま、そういうんやったらいいか?」
と納得したように笑った。僕はその僅かな沈黙がすごく気になったけど、結局何も聞けずに僅かに首を傾げてやり過ごした。
「送ろか」
「うん」
「あ、おまえの連絡先」
「えっ? あ、そっか、僕、聞くだけ聞いて言ってなかったね」
くすっと笑って差し出された携帯を受け取り僕は自分の電話番号とアドレスを登録した。待受けが可愛らしい和柄だったことが意外で、思わず頬が緩むのを隠しながら……
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