ストーカーとヤクザ / 03


 ラーメン屋を出て歩いて帰るって言う僕に

「乗ってけ」

と言ってくれた仙醍さんの車はいかにもヤクザな黒塗りのベンツ…… それが何故か2台停まっていて、 まさか…… って思っていたらやっぱりやった。お付きの人が後部座席のドアを開けてくれて仙醍さんが乗り込んだ後、僕も促されて乗り込む。ドアが閉められるとスモークガラスで外はほとんど見えない。昼やったら見えんのかな? 結構、色濃いよな。呑気にそんなことを考えてたら、助手席にドアを開けてくれた人が乗り込み動き出す。あとの二人は案の定もう1台のベンツで後ろから着いて来る。

「みんな乗るのかって思った……」

 ボソッて呟いたつもりの僕の言葉はしっかり仙醍さんの耳に入っていたみたいで爆笑された。

「男六人で? それは勘弁やな」

 僕も想像して確かに勘弁やって思う。だって怖いやん。どこみてもヤクザなんてさ。数分走ってふいにどこ? ここ…… って微かにパニクった。そんな僕をちらっと見て仙醍さんは

「優月、降りるぞ」

と言うけど…… なんか絶対変っ。ネオンが煌びやかで、というより派手で、というかどっから見ても所謂ラブホよな、これ。

「なんで?!」

 いきなりですかっ! 僕の心の準備は? そんな軽そうに見えるわけ僕……あぅあぅ考えていたらあれよあれよと言う間に部屋へご案内されちゃって……

「仙醍さん、酔ってる?」

 なんてバカなこと口走ってみたりもした。不敵に笑った仙醍さんは、

「稜湧」

と僕に訂正を迫る。恥ずかしい…… いくらなんでも無理。

「優月」

 促すように抱き締められて耳元で囁かれ僕は顔が真っ赤になっていくのを感じた。 名前、呼ばれてるよ……

「稜湧、さん?」

 さっきまで知らなかった人。 ほんの少し前に知り合って彼氏になっていきなりこれぇぇ。 いや、無理。 絶対無理。 なのに僕って欲求不満? 体をまさぐる手にイヤとかは感じない。 感じないけど、どうしよ、心はついていかない。

「待って、待って、稜湧さんっ」

 僕は、稜湧さんを軽く押してとめ、

「こんなのやだっ」

て気がついたら口にしていた。

「会ってすぐなんて無理っ」

 僕が真っ赤になりながら叫んだものだから仙醍さんはびっくりしたように僕を見た。 次の瞬間には思いっきり爆笑された。

「おまえ、いいわぁ」

 何がいいのやろ?

 わかんない、わかんないけどなんか楽しそう。

「何が?」

「さあな」

 うぅ…… めちゃはぐらかされた気がする。

「……できんで、怒った?」

 なんとなく僕は不安になって聞いてみる。

「いや、全然」

 笑って頭をくしゃっと撫でられる。まだ僕はこの人が好きかどうかよくわからない。よくわからないのにホッとして、

『あぁ、この人なんやな』

って思った。

「ごめん」

「何が?」

「……できなくて」

 そんな僕にふっと笑って仙醍さんは煙草に火をつける。僕ってなんで気の利くことが言えやんのやろ。ふと仙醍さん見ていたらそう思った。好きかどうかはまだわからない。わからないけれど僕はこの先彼氏が変わることはない気がする。なんやろ。直感? みたいな?

「……次は、がんばるから」

 ぼそっと告げる僕に、

「がんばることやないやろ」

と笑う仙醍さんがすごくかっこよく見えた。 ベッドの端に座って美味しそうに煙草を吸っている仙醍さんを見ていたら何だか凄く切ない気分が込み上げて来て僕は思わず後ろからギュッって抱きついた。

「仙……、稜湧さん」

 抱きついた腕に力を込めてますますギュゥッってすると

「なんや、優月。 甘えん坊さんやな」

と穏やかに僕の腕をぽんぽんと叩いて黙って抱きつかれたままになってくれる。

「稜湧さん……」

「ん?」

「……稜湧さん……キ、ス……して……」

 僕は恥ずかしくてちょっと小声になりながら、だけどしっかり聞こえるように耳元でこそっとお願いした。



[ 4/9 ]

[*prev] [next#]
戻る
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -