ストーカーとヤクザ / 02
結局僕はいつの間にかラーメンに付き合うことになっていた。 泣く泣く…… 連れて行ってくれたのは有名なラーメン屋さんで確かに美味しい。でも、でも、気分的には全然美味しくないからっ。僕と向い合わせには仙醍さん、仙醍さんと僕の両隣りには仙醍さんところの人が座る。御付きの者…… なんて思ったことは内緒。そんな状態でラーメンを食べても味なんて全然しないし…… うぅ…… なんかストーカーとヤクザ、どっちの方がマシなんやろ。なんとなくストーカーの方がマシかもなんて思ってきた……
「面白いやっちゃなぁ」
本当に突然仙醍さんは笑い出した。何が? 僕はなんもしてないけど……
「おまえ」
僕??
「百面相。 おまえみたいなおもしろいやつはじめてや」
「……そうですか。 それは、どうも」
僕は口をモゴモゴさせながら呟いた。
「おまえ、名前なんて言うんや?」
そういえば名前聞いて名乗ってなかったなぁなんて今更ながら思い、
「優月。 黒江優月」
とまたもやバカ正直に答える。て言うか、僕ってバカやぁ…… なんでヤクザ相手にフルネーム名乗ってるんやろ…… 適当に答えとけばよかったのに…… いやまぁ今更すぎ……
「優月か、女みたいな名前やな」
むっ、どうせっ。僕の考えていることなんて仙醍さんには筒抜けみたいで、仙醍さんは機嫌よく笑っていた。
「優月、おまえ、俺と付き合え」
ん? 今ラーメン食べるの付き合ってるじゃん? 違うのか??
「そんな頭に? とばさんでもいい」
「や、付き合うって何を?」
「おまえ、アホか?」
心底バカにしたみたいな言われ方にちょっとムッとしながらも、
「まさか、……他の意味って……付き合う?」
なんてブツブツ言ってると
「それ以外に何があんのや? おまえ、俺の女になれ」
決定事項ですか??? てか女って言われ方もイヤ…… あれ? 怒るところはそこじゃないかも?
「男ですけど、僕……」
「見りゃわかる」
「……」
「俺の女になれ」
今日は厄日やぁ。ストーカーにヤクザ。
「うぅぅ」
お箸を折る勢いで握り締めて唸っていると、仙醍さんはにやっと笑って
「唸るぐらいなら付き合ってみてから考えろ」
と言う。きっと僕がうんと言うまで帰さんつもりやろなぁと思いながら、仙醍さんをじっくり観察する。うん。なかなかいい男や。目付きは鋭くて怖いけど、どっちかっていうと女顔の僕には羨ましくなるような男っぽい顔をしている。それになんとなく仕草が優雅でこんな人と付き合ったら僕はどんな風に変わるやろって、なんだかわくわくしてくる。どうしようかなぁ…… 僕の今までの彼氏歴って結構最悪なんよなぁ。そう、彼氏歴なんだよなぁ。この際もういっそのことヤクザと付き合ってみるのも面白いかもしれへん。うん、どうせ目つけられちゃったんだったら、楽しむくらいの余裕があったほうがいいよね。
「どうする?」
僕の百面相が面白かったのか上機嫌で面白そうに問う仙醍さんに、僕は頷いた。
それが僕と仙醍さんの、いかにも軽い出会いだった。
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