(4/10) 3、5月は近寄り難い優等生


 自己紹介をしたからといって急に仲の良い友人に、だなどと都合の良いようにはいかず、花京院─最初から人を名前で呼ぶ奴は人気者かそういった性癖のやつか、勘違い野郎だけだ─とは他人同然に過ごした。
 クラスの他の連中とは上手くいってない訳ではなかったが、僕達はもう高校二年生だ。必然的に自分のいるべき場所というのは定まっていて、とてもじゃないが僕の入る余地なんてありはしなかった。

 そのためクラスでの僕の行動は専ら、隣の赤髪を何となく眺めることだった。観察とも言い換えられる。

 彼は他人に不快な思いをさせないことが得意だった。まずは仕草が上品。笑うときに決して歯を剥き出しにせず、弁当を食べるときは米の一粒も落とさず、猫背ではなく、指先まで意識して形を保つ。
 次に態度。一人称が“わたし”であるのは少し女性的な気もするが、上級生や先生方には敬語を使い、同・下級生にも卑下や罵倒する言葉は口にしない。他人にものを教えるときは簡潔に、ときに身ぶり手振りも交えて馬鹿でも理解できるよう説明してくれる。
 まさに優等生。ちょっぴり影が薄くて学ランは長いが、僕は彼の友人になりたいと思った。不良は嫌いだが頭の回る不良はカッコよくて好きなんだ。


 しかし僕は彼に近づけなかった。
 精神的にというのもあるが、なんだろう、物理的に?
 登校して朝のご挨拶ぐらいまでならなんとか言葉を交わせるのだが、彼はなぜか他人との距離の取り方が達者で……どんな表現が適切だろうか。「皆が他のことに夢中になって自分を気にしないタイミング」にするりと忍び込むのが得意なやつで、例えるならタコが地形によって体色変化を起こすようなそれは見事なものだった。誉めるべきではないのかもしれないが。

 最初は避けられているのかもしれないと思ったが、よく注意して見てみると花京院は誰とも友人以上の関係を作らない人間だと分かった。丁寧な態度も相乗して、無意識に近寄りがたいイメージを与えているのかもしれない。
 そこに僕は違和感を感じた。他人に親切にしているのに友人が一人もいないとはどういうことだ?なにか理由があるのだろうか、しかし直接聞こうにもふとした瞬間彼は席を立ってどこかにいってしまっている。


 そんな訳で、花京院と僕が本当の友人になるのは春の暖かい風が湿った空気を孕む──5月下旬頃の、ある事件がきっかけだった。





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