君と未来を歩む | ナノ




下級生にとって上級生とは



予想通り、といったところか。またはベタな漫画かよと茶々を入れるべきか。連れて行かれた先は体育館裏だ。かすかに土埃が舞う薄暗いそこには既に先客がいる。
「やあ、朝ぶり」
他のセンパイとにらみ合いながらもこちらに気づいてくれたようだ。いつもと変わらない声音で話しかけてくれたのだ、が。

『露伴おめー、その顔……』
その頬は何回も殴られたのか青黒く腫れ、眉のあたりは既に切れ、そこに浮かぶ小さな血液の球が今にも滑り落ちてきそうだ。制服にも所々靴裏の跡がくっきりと残っている。
明らかにここでやられていたのだ。おれが来るその幾分も前から何十分も。

「カズくん達もう来たのォ?」
「追加早くない?」
あのスカートの裾を折り曲げている女のセンパイ達も、フェンスに寄りかかって手持ち無沙汰に髪の毛をいじっていた。人目につかないとは言え堂々とセーラーの胸当てさえ取っ払ってあって、女性のマナーとして見えてはいけないものがチラチラ見えて思わず顔ごと伏せてしまった。
「キャッ!今この子アタシのパンツ見た!」
恥じらうようにほとんど腰巻きのようなそれで股の間を隠す。ちがう、そこじゃない。
「何?オレの彼女に手ェ出そうってんなら制裁スッぞ!」
衝撃!側頭部を力任せにぶん殴られた!と気づけたのは一瞬目の前が真っ白になった直後。制裁だと?まずは彼女の貞操観念をまともな方向に修正してからにしてほしい。
思いっきり頭を揺らされたせいだろうか。血が一気にざっと引いたような感覚がして、掴まれている詰襟以外の重心が消えたかと錯覚する。が、足がふらつくのを土の地面を踏みしめて耐える。耐えなければ。

まだ、まだだ。“証拠”がほしい。

『………誰が……』
「あン?」
『誰がてめえみてーなヤニ臭ヤク臭プンプン女のパンツ見るかよ!
        野良犬のケツ追っかけた方がましだっつーのッ!』
よし、言ったッ!反応はどうだなんて一目瞭然だ、あいつらぶちギレてやがる!

「この……ナマ言ってンじゃあねえぞコラーーーーーーーッ!」
ガッ!!
すぐ近くで拳と皮膚と骨が高速でぶつかり合う音がした。
遅れてくる浮遊感、意識を飛ばしかけてぐるりと自分の黒目が上に向くのがぼんやりと分かる。

「まあまあカズ、落ち着いてよ。これじゃあオレ達が「ワル」みたいじゃあないか」
人の良さそうな笑顔を作ったセンパイ達の仲間が、今こっちの胸ぐらをつかんでいるセンパイをたしなめる。

《カシャッ》
「「「!!?」」」
「オッケー、上手いこと撮れたぞ」
露伴がインスタントカメラを持ってニヤリと笑う。

「幸彦、元気?体の調子良い?」
『……っ、見りゃ、分かンだろ』
おれ達のやり取りを見て合点がいったのか、さっきの不良カップル以外の奴らも慌て始めた。これを先生に提出すれば少なくとも停学は免れない。
我先にと職員室を目指して駆ける露伴を背に、喉の調子を整える。意識がまだ濁っているけれど、この状況ならこれで「準備万端」だ!

『センパイ方、今からおれが言ったことには必ず従ってくださいよ』
「アァ?てめー……」
『《     》、出来ますよね』









「よく耐えてくれた!上級生からのリンチなんて怖かったろう」
『はい、………頑張りました』
手当てのために連れていかれた保健室。ガーゼに手を当てて俯けば、「そうか、よく頑張った………ッ!」と啜り泣く風紀指導の先生。涙もろいのはどうにかしてほしいけど、この人根が素直すぎるから罪悪感が湧くんだよな……チクショウ、露伴のやつ事情聴取は僕がーなんて言って!この状況を押し付けやがった!

「さて、問題の彼らの処分だが。残念だが、彼らは退学処分となるだろう」
思っていたより重い。だが、あの様子からして既に前科があったのか。仕方のないことだと思う反面、自分達の動機が「転ばされたこと」ただ一転であることに何となくもやっとする。しかし確かに悪党を成敗したのだ、と薄暗く自尊心が褒め称えてくるのだ。
『センパイ方には更正の道はあるんス……ですか?』
「勿論だとも!……そんな辛そうな顔をするな、身から出た錆というヤツさ」
ポンポンと肩を叩かれる。励まされているのだろうが、頭を力強く撫でられたりもオプションで付いてきてようやく話された頃には軽く疲弊していた。
「勇気ある行動には感謝する。けれど、もう二度と危ない橋を渡るような真似はするんじゃあないぞ」
『ウッス、気を付けまっス』
生返事を返してそそくさと先生から離れ、露伴のいるだろう職員室に向けて歩き出す。

……
別に彼らに申し訳ないとかそんなんじゃあない。
悪党にはそれ相応の代償を。宣言通り彼らはおれの“言ったこと”をよく聞いてくれた。あの態度では改心してまともな人間になるなんてことは到底不可能だろうが、うまく行けばこれに懲りて二度と外で顔を合わせることは無いだろう。と思っていたのだが。

『……まあ、これで一件落着ってヤツっスか』

その考えが非常に甘いものだったということを、後に俺たちは知ることとなる。






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