君と未来を歩む | ナノ




ノイジークレイジー、さみしい、悔しい、○○シー



 露伴が発表会で出した絵が、なんと都内のコンクールで金賞を取ったらしい。

 と聞かされたのは、冬休みもあと数日を残したところという頃合いだった。


『マジでかッ! やったじゃねーか露伴よぉ〜〜〜〜流石おれの親友だぜェ〜〜〜〜〜〜ッ リベンジして努力した甲斐があったよな〜〜〜〜〜ウン、ウン!』
 マジでハードボイルドな行為、逆境を乗り越えるってスバラシイ! と本人ではなくおれの方がテンション上がっていると、暖房を付けて温くなったリビングでおれの淹れた紅茶を飲んでいた当事者が抗議してきた。

「おいよせよ幸彦、みっともなく騒ぐんじゃあないぜ。それに僕は周りからの評価のために絵を書いている訳じゃあないんだ……って何度も言った筈だろう、今回のことも偶々審査員が僕の絵の魅力を分かる奴だったってだけの話だ」
『オメーがこれっぽっちも喜ばねーからおれが喜んでンの!』
「ありがた迷惑って言葉知ってる? ン?」
 そう言いながらもソーサーにカップを置くそいつの機嫌は妙に上向いているのが分かって、おれは更に自分のことのように嬉しかった。だってそうだろ、やっぱり露伴の絵がスゲーんだってことをエライ大人達が認めてるんだぜーっ! 美術部とか言うお子様達には露伴の感性を理解できなかったようだが、やはり分かる人には分かって貰えるんだ。それがやっぱり嬉しいってのは変わりゃしない。


 ニィーッと自然に弧を描いてしまうおれの口元を見て、いつもより幾分か穏やかな露伴が……おれを不機嫌そうなポーズだけの半目でじっと見つめて……なんだか変にキレーに微笑んだ。



『…………… ………………』
「どうしたんだ幸彦? 急に黙ったりしてさ。煩くない君はなんだか調子が狂う」
『い いや……なんでもないぜ(やっ やっぱり“そう”なのかッ? ど……どーなんだ!?)』

 急に熱くなった顔を疑わしげな露伴の視線から隠そうと、もう空だった紅茶の中身を入れ直すためにそそくさとキッチンへ向かう。確かまだポットに残りがあった筈だ、冷めてしまっても今のゴキゲンな露伴ならちょっと愚痴を垂れるぐらいで済むだろう。
 母さん好みのウエッジ……なんちゃらの高そうな花柄のカップ。露伴が来る時は、実はコッソリ戸棚の奥に仕舞ってある一番綺麗な物を使っていることはあいつには内緒だ。おれの見た目に似合わずハズカシーし、あいつ絶対調子に乗るからな! おれだけの秘密だ。
 ……そういえば、カップに口をつけている時のあいつ、なんだか…………唇とんがってて、キレーな花柄におキレーなすまし顔が似合ってて、なんちゅーか………………
(な、な、なにを考えてるんだおれは………………ッ)
 ポワンと薔薇色の考えが頭に浮かんで即座に振り払う。それもこれも露伴のせいだ、アイツがあんな絵さえ描かなければ!

 ジョボボボボ、と恥ずかしさを消し去るように紅色の液体を並々注いでいると、でもナァ、なんだかな、と露伴が頬杖をついた。なんだか不満そうだ。なんで?

「なんでってきみ、……いや、きみには関係ないことだったな、忘れてくれ」
 そう言うと露伴は眉に見慣れた皺を寄せ始めてしまった。


『ンだよ、おれにも教えてくれたっていーじゃねーかよォ〜〜〜』
「しつこい男は嫌われるぜ」
『嫌いっつってもよォ〜〜露伴はずっと傍に居てくれるんだろぉ? どーせ聞き出すチャンスは幾らでもあるんだしよ、今吐いちまった方が楽だぜェ〜?』


 リビングに面したダイナーに今度はおれが頬杖をついて、渋る露伴に一転攻勢。なぜなになんのこと、英語の授業で習った5W1Hに並ぶぐらいしつこく聞いてやると、もうそろそろキレて帰っちまうかなってぐらいで露伴がギロリとおれを睨んだ。

「本当にきみってしつこいよな。別に教えてやってもいいが、それにはある“条件”が必要なんだ」
『なんだよ、その条件って』
「きっとこれを聞いたらきみは怒り狂うだろうな、なんせきみがこの世で一番嫌っていることだから」
『だから、それってなんのことだって言ってるだろーが』

 やけに深刻そうに話す露伴。こいつがあんなに顔をしかめて話すってことは相当残酷であるか、はたまた喋るのが億劫だからテキトーに煙に巻いといてごまかそうって魂胆のときだ。
 おれは考える。
 特に今は絵の話をしているんだから、絵を《描く》のに命《懸け》てる(これはダジャレではない)露伴がテキトーな話をするだろうか。
 いーや! しないね。露伴は絵に関して、一度だって自分がこうと決めた生き方やポリシーといったある種の執着心を、自らの行動ひとつで台無しにするような真似はしなかった。そしてそれは恐らくこれからも覆ることはないだろう。

 ならば100%おれには聞かせちゃいけなかった、いや尋ねて欲しくもない事なんだろう。
 露伴がおれに隠さねばならないこと……? 発表会……金賞…………露伴は賞を取ったことを喜んでいたな……ならどうして……。


 そうして気づいた。いや、気づいてしまった……といった方が適切か。
 まったく、今日はなんて情けねー日なんだろう。


 そもそも今回賞をとった絵は、あの描き直した後の“二つ目の絵の方だ”。


 懐かしさを感じるあの彩飾に凝った町並み。でも大人達が称賛したよりも、おれがもっと目を惹かれた作品、さっきまでずっと思い描いていた、露伴の思いが籠められた、あの………………。
 そうして軽率に、そう何時ものように、おれは溢した。紅茶をではなく、


 言葉を。
 
『露伴、ちょっと聞きたいんだが、いや、ずっと聞きたかったんだけど、』
「何だよ、もう言わないからな」
『そのことじゃなくて、ああいや……それにも関係ある話かも…………どう言ったものか……』
「だったら余計に答える必要が感じられないな。悪いが今日のところは帰らせてもらうぜ、紅茶も要らない」
『だッ待てって、露伴!』

 早口で捲し立てて帰ろうとするそいつに、一瞬気持ちが焦って喉の奥にチューナーを合わせてないラジオのような雑音が発生する。能力発動の兆候を今じゃないと必死に押さえ込み、慌てて何とか閉まりかけたドアにかじりつく。

『待って、《待ッ》………待てって言ってるだろ!』
「さっきからザリザリギャリギャリうるせーんだよッ! 何なんだ一体、そこまで食いつく話でもないだろう!」

 あーあまたキレさせちまった! おれたちは怒鳴り合わないと話もできねーのか!?
 今回ばかりは怒りより恥ずかしさの方が上回ったおれが、予防注射を警戒する猫みてーに背中に力を込めてドアを閉めようとする露伴を宥める。
『そ……その位置で良いから聞いてくれよ。質問に一つ答えるだけで良いんだ……。頼むよ………………』
 気持ち悪いくらいしおらしくするおれの猫撫で声に、マジで気持ち悪そうに顔を青くした露伴がノブを握る力を弱めた。流石のおれでも傷つくんだぜ。

 そして後悔した。今ここで、この状況で露伴を呼び止めてしまったこと。
 だっておれは“知ってしまっている”んだ。 露伴がもう二度となく、“おれに隠しておこうと決めた”その感情。
 同時に、この軽率な行為に責任を持つべきだと思い直し、震える声をなんとか絞り出す。

『あ……あのさ…………露伴が最初に描いた絵あるだろ? あのズタズタに破かれちまった絵』
「………………」
『お、お、おめーが隠すからいけないんだぜ……隠したら、それを聞き出すためにおれが喋んなくちゃいけないから……でさ、ホントはオメーに聞いちゃいけないのにさ、いやでも言っちまおうか……』



『い……《一緒に》さ、賞取りたかったって。お前の描いた、一番目の絵で……お前“も”、そう、思ってるのか?』



 言ってしまった。
 別におれは隠してた訳じゃあねーし、そう、露伴が隠してたのが悪いんだ。
 

 おめーが言い淀んだ理由がきっと、破られた最初の絵。吐息が感じられそうな程リアルじみた、それを只の友情だと表現するには生々しい筆遣い。思い出しただけで視界は圧倒されて、鼻にツンと来る絵の具の匂いが嫌に甘ったるく感じられて、腹が減ったような胸が詰まるような、ああきっとあの絵が完成したとき彼はきっと、なんだっけ、あれを言葉にしてしまったら、そうだ、その言葉は─────……


「ああ、きみもあれを見ていたんだな。そうならそうと言ってくれれば良かったのに。」
『ろ、露伴、そんなアッサリと』
「そうさ、僕「は」きみを描いた絵で入賞したかったんだ。」
 それって、それって、それって!!




「《友人》の西之谷幸彦の絵でね」





『ゆう、じ、ん』

「どうしたんだい、何かおかしな点でも?」
『だ、だって露伴、』
「タイトルにも書いてあっただろう。あれは僕の唯一の親友であるきみを描いたものだ。きみとの友情を筆に乗せてあのキャンバスに描いたんだ。それにしてもやはり、長年間近で僕の絵を見てきただけのことはあるな。あんなに原型を留めていない状態からでも僕の絵の意図するところが分かるなんて。もしかしたらきみが一番僕のことを解ってくれているのかもしれないな!」

 ははは、と大声で笑う露伴。なんだか火が付いたように唐突な、感情のない大笑い。
 おめーらしくねーんじゃねえの。
『ろ、ろは……』

「それにしても、儘ならないモンだな」
『え、』
 暖かい室内に、露伴のいる廊下から冷たい風が侵入していることに今更ながら気づいた。
「すまない……幸彦 本当に、これ以上、耐えられそうにないんだ」
 凍り付いたような声色を置き去りにして、ぱっとドアノブから手を離した露伴の足音がそのまま玄関へと駆けていった。


       あ、そっか、露伴の絵は破られたんだっけ。
 
           誰に。

 美術部の奴ら。露伴の感性を分からない奴ら。

  どんな奴ら。

   普通の奴ら。俺たちみたいなのとは違う、ありふれた奴ら。 



          《普通》にとって、露伴の感情は異端なんだ。
 



 …………………えっ……だからなんだと言うんだ?
 露伴の対象がおれであり、そしてまた異端であるおれという存在。普通がどう言ってよーが、ただ一人の該当者であるおれが露伴をそーゆー感じに想っている以上そこになんの問題もありはしない。
 きっと露伴はおれとの友情が壊れると思ってあんなに我慢してるんだろうが、まあおれと露伴のことだし新しい関係がおれ達を繋いでくれることだろう。おれが良いと思ってるんならいつも答えは良し! パーフェクトだッ!!
 

『《ぜっ…………てーモノにしてやるからな……!! 待ってろよ露伴!》』


 
 一人の寒々強い部屋で喉に手を置く。おれの異端の証。この東京じゃあおれと露伴しか知らない(仗助はまた違う特別枠だ)、友情と特別の証でもある。そこに加える新たな関係だって、きっと異端のおれ達には良く似合うだろう。

 騒々しいノイズには耳慣れてる筈だ、岸辺露伴。
 

 せいぜいおれの手料理を食えないつかの間を楽しむことだな!
















 ………や、やっぱりサミシーからなるべく早めに決着つけるか…………!
 カッピョよく締まんねェ〜〜〜〜なぁ〜〜〜〜〜〜もォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!








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久し振りに書くとテンションが訳分かんなくなりますね


元々のお話とガラッと変わりますが気の向くままに書いていきます



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