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「何の用だ。今、学園祭の事で生徒会は忙しいんだ。手短に頼む。」
冷たい目だ。どことなくその目つきは爽平と似ていた。
「…学園祭と、弟、どっちが大事なんだ。」
周防爽太の目つきが若干変わった。
「俺にでも理解出来るように言ってくれるか。」
「…何で爽平の見舞いに行かないんだ。お前だけじゃない、お前の両親も、何で息子が精神を病んで入院してるってのに、見舞いの一つも来ないんだ。」
「まず、ウチの母親が見舞いに行く事は絶対に有り得ない。父親は海外に単身赴任中。」
周防は中庭に備え付けられている鉄製のベンチに優雅に腰掛けた。
その姿は、事の重大さを分かっているのかと、疑いたくなるほどの余裕を感じられた。
「信じらんねーな、息子がこんな状態になってるっていうのにっ」
「うちの家庭は複雑なんだよ」
「…で、お前は?」
ベンチに足を組んで腰掛けている周防を見下ろしながら睨みを利かせると、普段の周防からは想像つかない位の鋭い眼光で下から睨み返された。
「何で、俺が?アイツの為に。」
周防は笑ってさえいた。
何があれば弟の一大事だというのに、そんな事を言えるのだろうか。ただ、兄弟の仲が悪い、というだけで、こんなに弟の事に対して無関心になれるのだろうか。
「…いい加減にしろよっ!!爽平は今、苦しんでるんだよっ!!」
周防は鬱陶しそうに眉を顰(ひそ)め、前髪を掻き上げた。
「…これだから、不良は。感情論で物を言うから困るんだ。」
「あぁ、そうさっ!俺は頭悪いから難しい事は言えねーよっ。だがな、見過ごしちゃいけねー事ってのがあるんだよっ。お前、爽平の兄貴なんだろっ?もっと爽平の事思ってやれよっ。お前のたった一人の弟だろがっ。…お前ら、兄弟だろっ!」
急に胸倉を強く掴まれた。
あまりの強さに上体が崩れかけたが、何とか堪えて踏みとどまる。
周防は…血眼で俺を睨み上げていた。
「…簡単に、弟だなんて言うなっ。簡単に、兄弟だなんて言うなっ!!」
周防の叫喚は広い中庭に響き渡り、俺はその変わり様に指一つ動かせずにいた。
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