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「…お前に何が分かるんだよっ、俺らの何が分かるっ!!」
「す、すおっ」
「俺がただ爽平を嫌いだと思うか…っ?違うっ、弟とか、兄弟とか…全然ちげーよっ!俺はアイツが心の底から大嫌いで、憎いんだよっ」
…恐かった。顔は同じなのに…爽平なのに…、だけど違うんだ。これは周防爽太で、爽平ではないんだ。
周防爽太と周防爽平には他人が介在出来ない何か暗いものがある。寂しい色をした暗いものが、互いを苦しめている。可哀想だ。周防も、爽平も、可哀想だし、悲しい人間だ。
だけど、
「…泣いてるのか?」
「…爽平に、会いたい。」
「…」
「…俺は爽平に、会いたいよ…。」
膝から崩れ落ちる様に俺は泣いていた。
周防の手が俺の胸倉からゆっくりと離れる。
「…爽平は、お前を待ってるよ…っ」
「は?」
「…病院のベッドの上で、お前との思い出に浸りながら生きているっ」
「…思い出?」
「…そうだ。爽平は、お前の事大嫌いだったし、大好きでもあったんだよ…っ。」
黙って俺の言葉を聞いている周防の表情は読めなかった。
ベンチの上に置いてあった、学園祭について纏(まと)めたの資料が風に舞い上がり、そのまま何処かへと消えていった。
伝える事はもう何もなかった。
◆◆◆
爽平の兄貴に掛け合ってから二週間が経過した。
今日も白い病院の、白い個室は静かだった。
ポタリ…ポタリ…
爽平は相変わらず眠っていた。俺はそれを黙って見ていた。
爽平は幸せな思い出という、夢の中を泳いでいる。
どちらが爽平にとって幸せなのだろう。
このまま、兄貴との思い出に浸っている方が幸せなのか。
「…だけど、俺。お前に伝えたいことがあるんだよ。」
その為に、爽平の幸せな世界を奪うことは、自分の我が儘なのか。
「伝えればいい。」
突如聞こえた第三者の声に、全身が固まった。
背後を振り返ると、周防がスラックスのポケットに手を入れたままダラッと立っていた。俺の知っている周防の雰囲気とは違っていた。
「俺が、ソイツ起こすから。」
夢と現実の境界が分からない馬鹿野郎を、と周防は最後に付け足した。
俺は、絶望と安堵感を一度に味わった。
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