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「痛い痛いっ!」
「離せ、って言ってんの」
男が手を離すのを見届けて、足を退けてやると、男の手は赤くなり、地面の跡がくっきりと付いていた。
「ぁ…あ…くっ…」
「大袈裟な奴。そんなに痛いかよ。とりあえず、早くあんたの家。案内してよ。」
男は首を強く横に振った。どうやらまだ自分の置かれている状況が分かっていないらしい。
「…なら、あんたを警察に突き出すわ。男をストーカーする変態野郎だ、ってね。」
「ぁ…あ…家、案内するからっ…警察だけは…お願いします…」
そう言って、男は俺に縋り付いてきた。正直、いくら男前だからって、気持ち悪いから触らないで貰いたいんだけど。
「警察だけは…勘弁して下さいっ…お願いします…」
「分かったから、勝手に触らないでくれる?ムカついたからペナルティー1つね。」
俺は情けなく地面に這った、俺の精子の詰まったコンドームを拾い上げ、それを相手の目の前に掲げる。
「これ、飲んで。」
相手は吃驚した顔で俺をまじまじと見つめた。
「…いいの?」
「…頬を染めるな。気持ち悪ぃな。」
男は俺からコンドームを受け取ると、ゴムを歯で裂いて、ちゅるちゅると中の精液を啜りだした。
「うわー、まじで飲むのかよ。きもーっ…ほんと引くわ。」
男はゴムに付着した精液も綺麗に舐めとっていた。
「…おいしぃ。」
「3日以上前のだけどな。」
何でそこで男の顔が赤くなるのか意味が分からなかった。
「…これじゃあ、ペナルティーになんないな。」
◇◆◇
「これはひでー」
男の住んでいるアパートは俺のマンションのすぐ近くにあった。つまり、それは俺の知ってるアパートだった。こんなにも近くにストーカーがいたなんて…世紀末だ。
案内された男の部屋には、壁に俺の写真が所狭しとびっちり貼り付けられていた。中には大きく引き伸ばされた写真まである。そして、棚にはおそらくゴミから漁った俺関係の物が綺麗に保管されていた。
「きめーよ、あんた。」
「…っ」
「ゾッとするわ」
今、男は俺の目の前で所在なさげに小さく体を丸めて正座していた。明るい部屋の中で見る男は、身長の割りに意外と細身で驚いた。
「…ご、ごめん、なさい」
「まぁ、いいや。いくつか質問するから答えて。」
男は目に見えて青くなり、室内は暑くもないのに、汗の玉を額に浮かせている。それをひたすら拭っていた。
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