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猛獣チワワは般若のお面を一瞬で仏のお面に塗り替える。何て早業だ。


「あら、鬼島くん!何でこんな所」

「分かってて聞いてるのか?」


言葉を遮られて、猛獣チワワは苛立たし気に小さく舌打ちする。


「そのセーラー服は校則違反だって何度言わせれば分かるんだよっ」

「あら、可愛いからいいじゃない。」

「その口調も止めろ。気色悪りぃ。」


俺なんか空気扱いで会話が進んでいく。猛獣チワワは俺に背後を向けているし。


…なんか、面白くない気がする。


「あ〜ぁ、前の委員長は融通が利いたのになぁ…もう諦めれば?」

「風紀委員長である俺が見逃すわけねーだろっ」

「はっ、真面目すぎっ!大体、俺が女装辞めて何か鬼島くんにメリットあんの?」

「メリット以前に、校内で一人だけ女子の格好した奴がいたら可笑しいだろが。」

「こんなに似合ってるのに?」

「男が女の格好してるなんて気持ち悪いだけだ。」


風紀委員長の言っている事は凄くまともだ。
だけど、気持ち悪いは…少し言い過ぎじゃないか?猛獣チワワの女装への入れ込みようは本格的で抜かりが一切ないだけに、見た目は360°どう見ても美少女だ。

周囲のクラスメイトは正に一触即発の空間を固唾を呑んで見守っている。

「鬼島くん。君は俺に嫉妬しているな?」

…はっ!?


「はぃっ!?」


風紀委員長の声と俺の心の声が同調する。

正直、その発想は無かった。


「分かるよ。俺みたいな可愛くて華奢な身体した美少年がいたら、そりゃデブな君は羨ましい訳だ。」

「何故そうなる!?何故そうなる!?しかも俺はデブじゃねーぞっ!」

「俺からしたら暑苦しいデブなモテない男にしか見えない。」

「俺は抱かれたいランキング2位だぞ。眼科行けっ」

「数字に甘んじてる時点で負け犬だな。」

「お前なんてランク外のくせにっ」

「俺の美しさは数字では測定できないのだ。」

「この減らず口がっ…」






…………………なんか、


「小学生の喧嘩みたい…だなぁ…」

「ああ゛っ!?何か言ったかぁっ!?」

「ひゃっ」


猛獣チワワの怒りの矛先は俺に向いた。てか、何で俺の時だけそんなに怒るんだよ!


「止めろ、一般市民に危害を加えるなっ」

「…俺は変質者かよ。」


ハァと深い溜め息をつき、猛獣は風紀委員長に向き直す。


「はいはい、鬼島くんが俺を嫌いなのはよ〜く分かったからさ。もういいだろ?授業始まるから教室戻りなよ。」

「…別にそこまでは言っていない。まぁ、今回は指導って事で…明日は定期チェックの日だから制服着てこいよ。」



「あ、忘れてた。」

「だと思った。それで来たら校内に入れないからな。年に数回の定期チェックだけでも制服着てこいよ。」


それだけ言うと、風紀委員長は教室を出ていく。

チワワも溜め息を吐きながら、自分の席へと戻って行った。




チワワたちのやり取りに圧倒された俺は一人取り残された。


えっと…俺は何を考えていたんだっけ。

猛獣チワワは真弓が好きで、俺を襲った事からおそらくホモで、と云うことは真弓は男である可能性が高い。

真弓は男…猛獣チワワは真弓が好き…

自ら導き出した結論に、何故か気分が滅入る。


猛獣チワワは、確かに俺の恐怖の対象ではあるが、こちらを見て欲しい対象でもある。何でかな。


机に突っ伏すと、ひんやりと冷たい感触が気持ち良かった。


真弓か…。













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