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◇◆◇




やっと、お経を聞いているような長い授業も終わり、放課後となった。トイレに行く以外は基本着席しているから腰が凄く痛い。


…でも、今日は確かめたい事があるのだ。


猛獣チワワが動き始めると同時に席を立つ。本人にバレては俺の命が危ない為、非常に難易度が高いミッションだ。


チワワが教室を出たのを見計らって俺も教室を出る。心臓がバクバクと煩い。バレてはお終い、ミスは絶対に許されない。チワワと距離を開けて追跡していると、程なくチワワは立ち止まった。


…2-4?隣のクラスじゃないか。何でまた。


「何でお前がここにいる。」


…っ!?


俺に言っているのかと羞恥に縮こまっていたが、実際は風紀委員長が教室から廊下へ出てきた際に猛獣チワワに放った言葉だった。風紀委員長って隣のクラスだったんだ…。


「邪魔だよ、鬼島くん。俺の唯一の至福の時を奪わないでくれ。」

「…何言ってるんだ?」

「鬼島く〜ん、…あっ、糸島くん。」


何だか間の抜ける声が聞こえると思ったら、男が教室からひょっこり出てきた。


「こんにちは、峰くん。」

「うん、こ、こんにちわっ」


中肉中背の至って特徴のない顔立ちの男は、どうやら峰という名前らしい。


「それで何だ、峰?」

「あ、うん。こないだの件なんだけど…」


風紀委員長と峰くんが話しをしている間、猛獣チワワは非常につまらなそうにしていた。

顔が無表情すぎて、俺は恐怖から身体の震えが止まらなかった。


「分かった、その件はすぐに風紀で取りかかるわ。」

「悪いね、忙しいのに。」

「バカ、それが仕事なんだっつーの。じゃあ、俺行くわ。…糸島、明日は制服ちゃんと着てこいよ。」

「もぅ、分かってるよ!」


チワワの満面の笑顔に心が無さ過ぎて怖かった。


風紀委員長がいなくなって、猛獣チワワの周囲の空気が冷え冷えとなる。


「あ、あの、糸島くん。何か用かな?」

「はぁ?何で私が峰くんに用があるのよ。ちょっと自意識過剰なんじゃない?」

「あ、ご、ごめん。」

「てゆーか、さっきの何?普通な顔の癖してあんな風に男を誘うんだ〜。」

「誘うなんて、誤解だよっ!僕は鬼島くんに以前から相談事してて、」

「相談って何?」

「え、いや、大した事では…」

「ふ〜ん…やっぱり嘘なんだ。淫乱男が男を誘う常套手段だもんね。」

「い、んら…」


峰くんは今にも泣き出しそうな顔をしていて、それを見つめる猛獣チワワの呼吸は荒い。…変態だ。


「峰くんって、普通の顔してて意外と尻軽なんだぁ。本当、人は見かけによらないよねぇ、潔癖そうな顔してさぁ。」

「違うよっ!!…最近、僕…誰かに後をつけられているみたいなんだ。身の回りの物も頻繁に失くなるし…糸島くん?どうしたの?」


峰くんが小さい子供にするように、猛獣チワワの顔を心配そうに膝を曲げて覗き込む。俺よりは若干低いが、峰くんは意外と身長が高かった。
一方、猛獣は先程の活き活きとした顔色と打って変わって今は頗る悪く見える。


「……………気のせいでしょ。」

「…そうかも知れないけど、何か不安だし恐いから。」

「大体さ、誰が峰くんみたいな普通の人をストーキングするのよ?ははっ、自意識過剰すぎだって。」


その一言に峰くんの顔がじわじわと真っ赤に染まっていく。








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