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アイツの想い人が、おそらく俺であろう事も気にならなかった。
日記のページに滴が落ち、文字のインクが涙で滲んだ。
普段クールな弘前とは思えない内容だった。
俺が弘前の日記を握り締めていると、教室の前方の扉が開いた。
「赤、澤…?」
俺はその人物を見て、慌てて日記を自分の机の中に隠した。
弘前は俺の反応を気にせずに、こちらに近づいて来る。
俺の心臓は有り得ない程、バクバクと音を立てる。胸が壊れそうだ。
弘前は己の机の中や周辺を何やら探している。
「おい、赤澤…」
弘前の切れ長な目が俺を捕らえる。
「何、だよ。」
「…ここら辺でノート見なかったか。」
心なしか弘前の顔色は青い。あまり表情には出さない奴だが、それでも切迫感が漂っている事が分かる。
「し、知らない。」
俺の言葉を聞いて、弘前は目を大きく見開いて、その場に崩れた。
「弘、前。」
「…お前、何で泣いてんの。」
弘前は虚ろな目で俺を見上げた。
俺はたまらずにその場にしゃがんで、弘前を抱き締めた。
「弘前、俺は」
「どうしたんだ…?」
「俺は…お前の事が、好きだ。」
「………は?」
「愛してるんだ。」
「…嘘、だろ…」
多分、俺の言葉は同情から出た言葉だった。それでも、今はこの言葉しかなかった。
「本当だ。」
「…お前、どういう事か分かってんのか?男同士だぞ。」
「分かってる。それでもいい。」
弘前はずっと無表情だったが、俺の言葉を聞いて、僅かに目を滲ませた。
「それでもいいって…そんな簡単な事じゃないんだよ。」
弘前は泣いた。
「男同士なんて非生産的な関係、誰が認めてくれるんだ。世間ではおかしな事なんだよ。それに俺には許嫁がいて、学校出たら結婚しなくちゃいけないんだ。」
まるで、一つ一つ自分の罪を告白しているようだった。
「弘前、頼む。…俺を選んでくれ、頼む。」
俺はというと、涙をポロポロと流しながら弘前に縋っていた。自分でもどうしてこんなに必死なのか分からない。
「弘前が俺を好きなら、俺を選んでくれ。俺はどんな困難もお前と一緒にいたい。」
だから、もう独りで悩まないでくれ。そんな辛い日記は書かないでくれ。
「…弘前」
気がついたら、俺は弘前にキスをしていた。気持ち悪いとは感じなかった。弘前は驚いた顔をしていて、何だか笑えた。
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