日本文学 (優等生×不良)


私は男色家ではない。

むしろ許嫁がいる身で、校舎を出たらおそらくすぐに式を挙げるだろう。
親の仕事で贔屓にしている取引相手の娘で、私より6つも年が上だ。
大して好きでもない相手だ。
こんな結婚は望んでいない。私は豚なんかと結婚はしたくない。

私はお前が好きでたまらないのだ。
お前を想うと胸が痛くて、どうしようもなくなる。私の中でのお前はいつだって妖艶で淫らだ。私を睨む瞳に身は焦がれる。

その鴉の様に濃い黒髪が艶やかだ。生意気そうな目も色っぽい。日に焼けた肌や、その大きく筋肉と脂肪の絶妙な割合の体も非常に官能的だ。

お前が欲しい。私の所有物にしてしまいたい。

あゝ、でも。こんなのは不道徳だ。私の頭は気を違えているのだ、きっと。普通ではない。異常者だ。こんな事が親に知れたら、家を追い出されるだろう。そして、孤独の渦中を私は独り彷徨うのだ。そんな勇気も無く。お前を諦める事も出来なければ、胸の内を伝える事も出来ない。

私は堕落した人間だ。いっそ、腐ってしまいたい。骨も残らず溶けてしまいたい。
そう考えていたのに、うねる荒海に身を投げ出す事も出来なかった。

臆病者だ、私は。お前と出会わなければ、私は真っ当に生きられたのに、時々お前を憎んでしまう日がある。そして、そんな自分に嫌悪感を抱く。繰り返しだ。

もう疲れてしまった。お前が女ならば。

せめてお前が私に一々刃向かって来なければ、席が隣でなければ、そんな声で俺を呼ばなければ…お前を好きになる事は無かったのに。

俺を解放してくれ。こんなの辛すぎる。

そして、こんなものも意味のない言葉の羅列に過ぎない。

19XX,9,28 弘前 岳(ヒロサキ ガク)



◆◇◆



偶然、弘前の机の下に落ちていたノートを見つけた。

俺は何の罪悪感もなく、それを開くと、どうやらそのノートは弘前の日記であると分かった。

いつも真面目を貫いているクラス委員長の日記とあるだけに、そいつの秘密を握れるかも知れないチャンスに目を輝かせる。

そして、とんでもない秘密が書かれていたらそれを盾にして、日頃の鬱憤を晴らそうと思っていた。

俺は俺と正反対のアイツが嫌いだった。
人を馬鹿にしているような目で俺を見るからだ。俺が何を言っても、アイツの顔が崩れないのが気に入らない。

しかし、そんな天敵とも言えた弘前の日記を読んで俺は不覚にも泣いてしまった。

アイツの胸の内が苦しくて、辛すぎて。

涙が止まらなかった。








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