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ぴんぴんと跳ねるくせっ毛頭が階段を降りていくところが見えた。それを追って、後ろから制服の襟をくいっと引っ張ると、振り向いた赤葦が何すんだって顔でこっちを睨む。

「もっと普通に呼び止められないんですか」

乱れた襟とネクタイをちょちょいと直しながらケホッと咳払いをしたのは、襟を引っ張りすぎたせいかもしれない。と思いながらも謝らないのが私の基本スタイルだ。

「私になんか言うことない?」

「は?なんすか突然」

ぐっと眉間の皺が深くなる。赤葦は私と会話している時、よくこんな風に難しい顔をする。最初は『こいつバカじゃねーの』と思われているのかと思っていたけれど、どうやら違うみたいだ。
突拍子もないことを言い出す私の話を理解しようと努力してくれているのだ。

「さて、今日なんの日でしょーか?」

いつもは見上げなければいけない赤葦と目線が同じで不思議だ。彼よりも三段上に立つとちょうど同じくらいの目線になる。覚えておこう。
赤葦が首を傾げると、ぴんぴんとしたくせっ毛が音もなくゆらっと揺れる。

「ああ、誕生日でしたっけ。おめでとうございます夢子さん」

「ありがと。プレゼントくれてもいいんだよ?」

片手をはい、と差し出すと厚かましいスねと緩く笑われた。

「教室に財布置いてきたんで、今200円くらいしかもってないスよ」

スポーツ男子らしいごつごつとした手がポケットの中に入ると、ちゃりんと小銭同士がぶつかる音がする。
カフェオレでいいかと聞かれたけれど、イチゴオレとココアも捨てがたい。
うんうんと頭を悩ませていると、時間切れですと容赦なくシンキングタイムが打ち切られてしまった。

「待ってよ!ずるい!」

「ずるいってなんスか。そもそも後輩にたかってんのはそっちでしょう」

「たかってるんじゃなくて、プレゼントを要求してるの!」

「それをたかりって言うんですよ」

「ケチ」

吐き捨てた言葉に赤葦が呆れたようにため息を吐いた。
仕方がないなと、小さな子供をあやすみたいな目をされて、どっちが年上なんだかわからなくてさすがに居心地が悪くなる。

「つーか、飲み物でいいんスか?誕生日プレゼント」

安上がりな女だと言わんばかりの表情を寄越す赤葦に、言われてみれば何が欲しいのか考えてはなかったなと改めて思う。
おめでとうって言ってもらっただけで満足はしてしまった。さて、どうしようか。それが顔に出たのか赤葦がくすっと笑う気配がする。

「じゃあ部活始まるまでの間に欲しいもん考えといてください」

「…ほんとに何かくれるの?」

「いや、欲しいんでしょ?」

「あー、うん、そうだけど、でもなんか申し訳なくなってきちゃった…」

いきなり呼び止めて、誕生日おめでとうって無理矢理言わせて、プレゼント要求して、でも欲しいもん無いとか、自分でも何がしたいかわからなくなってきた。
何を今更みたいな顔をした赤葦がその代わりと言ったか言わないかの瞬間。
ちゅ、とくちびるに柔らかいものが触れた。

「そろそろ俺のこと意識してもらっていいスか?」

それならプレゼントを送る理由になりますからと、不敵に笑った赤葦から目が離せなくなる。
一段、一段と階段を降りていく姿を見つめながら、体が火照る意味を考えていた。





20150612
大好きなお友達に贈らせて頂いたお話です。
Title by サンタナインの街角で
mae ato
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