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私が貴大の部活を見に行かないのには二つ理由がある。
一つは、女の子にわーきゃー言われているのを見たくないから。本人はモテないとか言ってるけれど、それは及川徹と比べて、という意味であって、花巻ファンは結構多いと思う。
そのファンに対して愛想よくへらへらしている貴大を見たら嫉妬丸出しになるのがわかるから行かないということ。

もう一つは、多分、いや絶対に今より好きになってしまうから。バレーのルールは正直わからないけれど、うちは一応強豪校と言われるだけあってレベルが高い(らしい)し、それでいてしっかりレギュラーの座を譲らずに試合に出ているなんて、話を聞いただけでかっこよすぎる。今より好きにならない自信はない。惚れ直してしまうのは確実だ。だから行かないということ。

「夢子のために絶対勝つから応援してて」

それなのにあんないい笑顔で、そんな風に言われたら、断れないじゃないか。ずる過ぎる。

私の誕生日に一緒にいられない事を気にかけてくれたのか、練習試合があるから見に来いよと珍しく誘ってくれた。
彼の部活を見に行かない理由を貴大には言っていないけれど、なんとなく避けてるかなってくらいには察してくれていて、練習を見に来るように無理強いをされたことはない。
だから断り文句を用意してるわけもなくて、うっかり『はい』と答えてしまったのである。

ギャラリーにいる女子からは及川の名前以外にもレギュラー陣の名前がちらほら聞こえ、ハナマキという名前が聞こえる度にぴしっと背筋が伸びて心臓がばくん、と音をたてる。
やめればいいのに、ちらりと横目で確認してしまった。
あんたがハナマキの彼女?全然大したことなーい!とか言われたら立ち直れないレベルで可愛い子ばかりで、元から無い自信は最底辺まで萎むし、こんな可愛い子に毎回応援されてるなら鼻の下を伸ばしているんじゃないかとか、心配していた嫉妬心と劣等感が綯い交ぜになっていく。

やっぱり断れば良かった。
そんな風に後悔が大きくなった時だった。

キュキュッという摩擦の音。
そしてボールが床に叩きつけられた音。
普段の体育でやるバレーボールでは聞いたことのない派手な音に、制服姿の時の彼らからは聞いたことのない真剣な掛け声、そして何より飛んで、飛んで、また飛んだ。

見ているこっちの息が上がってしまいそうな程、飛んでは拾って、飛んでは打って。
いつの間にか握りしめていた拳は爪が真っ白になるくらいぎゅっと力が入っていた。貴大、貴大、ガンバレ。

相手校が弱かったわけではないと思う。
でもみるみる内に点差が開いていって、気づいたら試合は終わっていた。掌にはしっかりと爪の跡が残っていて、コート内の熱気が移ったのか、額にじんわりと汗をかいていた。

相手校への挨拶もそこそこにバタバタと音をたててギャラリーに駆け上がってきた貴大は、私を見つけてほらなって顔をする。
いつもみたいな意地悪な笑顔じゃなくて、タレ目をくしゃっとさせて邪気無に笑う。

「な?勝ったろ?」

練習試合とはいえ、勝った高揚感からなのか、貴大の声はいつもより上ずっていた。
長い腕で引き寄せられると視界には大きく書かれた“3”の文字。それは彼のユニフォームに書かれた番号だ。
やべえ、勢いで抱きしめちゃったよとか、あとで岩泉にどやされっかなとか。
彼の声が頭上で聞こえて初めて抱きしめられてるんだと理解する。
「みんな見てるよ」と言っても、腕の中で多少の抵抗をしても貴大は「うん」て言うだけで離してくれない。

「ごめん、汗臭いかも知んないけど我慢して」

「うん、ちょっとくさい」

だからごめんて、と貴大は声を出して笑った。でも抱きしめたくてと。

「お疲れ様」

「おう、さんきゅ」

上がった息が少し整ったのか、最後にふうと大きく息を吐いた貴大はようやく私を解放してくれた。

「このあと片付けが残ってるんだけど待ってられる?」

「うん、待つ」

じゃあ一緒に帰るべ、と大きな手が頭に乗る。ぐしゃっと髪を撫でられて、それが嬉しくて貴大を見上げると、にやりと今度こそいつもの意地悪顔をした。

「やっぱ勢いでちゅーまでしちゃえばよかったかなー」

小声だから誰にも聞こえてはいないと思う。それでも吐息だけの声が耳をくすぐったせいで一気に体が熱くなる。ちろっと舌を出して、言い逃げするなんて本当にずるい。
ドカッとわざと派手な音をたてて腰を下ろした。そのついでに両手で顔を覆ったのは、恥ずかしいからというより、緩みきった頬を隠すためだ。
ほら、やっぱりかっこいい。
あの可愛いハナマキファンにあんたがハナマキの彼女?って聞かれたら、胸張ってそうだよって、今なら言える気がする。

彼氏がかっこよすぎて自慢して歩きたくなるから。

これも部活を見に行かない理由として追加することにした。



20150728
尊敬する大好きなお友達のお誕生日に捧げたお話です。
mae ato
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