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知ってしまえば、こんなにも理性が脆かったと思わざるをえない。
普段ふにゃふにゃしてる花田は、しっかりと女だった。手が小さいのも、腕が細えのも、そもそも骨格が違うのは当たり前に知ってたし、くちびるが柔らかいのももちろんわかってた。
でもその先を知ることでこんなに抑えが効かなくなるなんて。

「ごめん、ちょっとコンビニ寄っていい?」

週に一度の部活の休息日。デートでもしませんか?と誘われたのは昨日の夜だった。
もちろん二つ返事でOKをして、どこに行くのかと聞いたら、学校からほど近い場所にあるショッピングモールの名前が出た。
フードコートのとこのたこ焼きがおいしいんだよ!という文字のあと、ブサイクなタコのスタンプが送られてきてブッと吹き出した。こういうの一つでも愛しく思えるなんて、と自然と緩む口元を手で覆うはめになる。
繋いだ手をクイクイと引いて、反対の手で少し先にあるコンビニを指さす彼女に、おうと短く返す。
ありがとうとへらへら笑う顔は高校生にしてはかなり幼いくせに、瞼の裏には知ってしまった別の表情がこびりついている。
俺よりも一回りは小さい手の平からは、きちんと肉の感触がするし、歩く度に擦れる制服がいたずらに下腹部を刺激するもんだから、若干の前かがみ。

「悪い、俺ここで待ってるわ」

このまま手を繋いでいたら完全に変態だ。
若くしてその称号は手にしたくはない。
花田はきょとんとしてから、じゃあ行ってくるねと電子音の鳴るコンビニの中に吸い込まれていった。

駐車場の縁石に腰を下ろしてため息半分、深呼吸半分で頭を抱えた。
付き合って約二ヶ月。先日ようやく彼女との初めてを味わってしまってから、頭がおかしい。というか、その事ばかり終始考えていて、いや男なんだから当たり前だろとか、それにしてもずっと考えてるなんておかしいだろとか。雑念が消えることはない。
俺もあいつも初めてで、心臓は口から出そうだったし、花田の心音はこっちにまで聞こえてきそうだし、照れながらも生まれたままの姿に近づいていくのは新鮮で、とにかく気持ち良くさせなきゃって事に俺は必死だったんだと思う。
それなりに経験のある某幼なじみや、AVで見てきた知識をフル活用しなければと、そればかり考えていたのに、そんなもん一瞬でぶっ飛んだ。

「大きくなくてごめんね」

泣きそうな顔で下着を外す姿に異様に興奮した。
確かにお世辞にも大きいとは言い難いそこは、触るとふっくらしていて、ちゃんと柔らかい。そこだけじゃなくて、どこを触っても自分のそれとは全く逆で、脳みそはショート寸前だった。
聞こえてくる声は控えめで、抑えるような堪えるような、いつもと違う『女』の声は聴覚を刺激するのに充分過ぎた。
AVなんか全然嘘じゃねえか。わざとらしい喘ぎ声や、しなり方を見てどうやって抜いていたのか。
花田の方がよっぽど、

「岩泉くん?」

ハッとして顔を上げると目の前には制服から伸びた白い足。
いつも太いでしょ?と気にするそれは、俺の足よりもよっぽど細い。
なのに触ると柔らかいんだよな、と感触を思い出すと収まりかけたソコに熱が集まり出す。
くそ、中学生かよ。

「具合でも悪い?」

屈みこんでのぞき込む顔とか、心配そうに揺れる瞳とか、大丈夫って動くくちびるとか、それだけでやばい。
透視能力なんて無かったはずなのに、制服の下にあるもの全部を知ってしまうだけで、想像力が働いて見えないはずのものが見えてしまうなんて、誰も教えてくれなかった。

「いや、具合は悪くないっつーか、むしろいいっつーか」

「え?」

「悪い、こないだの事思い出したら、ちょっと今すぐ動けそうにない」

あっとすぐに察してくれたのはありがたいが、申し訳なさで埋まりたい気分だ。
大変だねって真っ赤な顔しながらも俺の隣に腰を降ろす花田に、ちょっとだけ離れて座るように頼むしかなくて情けないったらない。

「すぐ落ち着くと思うから、そしたら行くべたこ焼き」

「うん」

「ただ、今日はちょっと手とか繋げねえかも」

しばらくすれば集中した熱は収まるだろう。しかし、再度集中させるのは容易い事で、今日はおそらく彼女に少しでも触れただけでアウトだ。
花田は俺の顔をじっと見つめて少し考えるような表情を見せる。
さすがに引かれたか。萎む気持ちに、いやサイテーなのは俺だしと言い聞かせた。

「たこ焼き、今度にしよっか」

やっぱり引かれたのだろうかと焦って言葉を探していると、彼女は少し離れていた体をスッと寄せる。

「せっかく出かけても岩泉くんと手も繋げないんじゃ、寂しいし」

ツン、と俺の制服の裾を引っ張る彼女は、相変わらずへらりと頼りなく笑う。

「私ももうちょっと触れ合ったりしたいな、とか、思ったり、思わなかったり」

「…そういう事言って煽んなよ、まじで抑え効かなくなるから」

「個人的にはそうなって欲しいってつもりで言ったんだけど…」

親、遅いんだよねという都合のいい言葉は俺の願望がそう聞こえさせたわけではなさそうだ。
男なんだししょうがないよな、と誰に言うでもない言い訳をして震える彼女の小さな手を握り締めた。






20150407
Title by 3gramme.
mae ato
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