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※教師パロ



気持ちを伝えた回数は数十回を超えた。でもこの人は適当にあしらっては、「ありがとな」と大きな手を頭にポン、と乗せる。
その余裕っぷりが腹立たしくもあり、諦められない理由でもある。

「ねえ、黒尾くん」
「先生な」
「黒尾くんがホモって噂流したの私なの」

ブホッと口に含んだコーヒーを黒尾くんは盛大に噴き出す。
そのせいで汚れた白衣を私のスカートで拭こうとするから、パンツ見る?と聞いたら頭を叩かれた。

「花田、お前なぁ」

最近、やたらとホモなのかと聞かれる。
そうボヤいた彼に白状したら、凄い目つきで睨まれた。ただでさえ人相が悪いから迫力ありすぎて足が竦みます、先生。

「村上先生にも聞かれたんだけどどうしてくれんの?」

村上先生とは新任の先生で、黒尾くんのお気に入りだ。ちょっと綺麗で美人だからって鼻の下伸ばしちゃってさ。
彼の口からその名前を聞くだけで胸の奥がギュって痛くなる。

「少しでもライバルを減らそうと思って」
「お前まだ俺のこと好きなの?飽きないねぇ」

人の恋心を勝手に終わらせられては困る。
好きだと伝える度に、そんなもん一過性のもんだろとか、『教師』って肩書きが好きなんだとか、失礼なことばかり言って最後に優しくありがとなって笑う彼を三年間ずっと思い続けてきたのだ。
これが一過性のものだなんて言わせてなるものか。

「黒尾くんは、女子高生嫌いなの?」
「バカ、お前。好きか嫌いかって言われたら大好きだよ」

でも教え子には手を出さない主義とか言って一線はしっかり引いてくれる。
ちょっとくらい靡いてくれてもいいのに。
こんな非常識な寝癖のくせに言うことは常識的すぎてつまらない。
そういうところも好きだけど。

「卒業すれば元教え子だから関係ないね」
「関係なくない」

まったくしつこいね、と近場にある椅子を引っ張ってきてそれに黒尾くんが腰掛けてくれたおかげでようやく見上げずに済む。
内ポケットからタバコを取り出したのに、吸う素振りが無いから吸わないの?と聞くと、お前がいるから吸えません、だって。
遠まわしに出てけと言われた気がしたけど、そこは無視。

「ここ禁煙でしょ?」
「某生徒が居なくなれば目撃者はゼロですー」
「チクリますー」
「やめてくださいー」

椅子に腰掛ける黒尾くんを腰でグイッと押すと、グイッと押し返された。
じゃれて遊んでくれるのに、肝心な所ははぐらかすのが上手とかずるい。

「黒尾くん知ってる?私、春から大学生だよ」
「知ってますけど?進路の相談に乗ってやったの誰だと思ってんの?」
「いいの?」
「いいのって何が」

三年間、一途に恋をしたおかげで身も心もピカピカだ。
好きと伝える度にはぐらかされたりはするけれど、拒否はされなかった。

「春から黒尾くんの目の届かない所にいっちゃうよ?いいの?」
「ガキじゃねんだから心配なんてしねえよ」
「本当に?本当にいいの?」

じりじりと距離を詰めると、詰めた分黒尾くんが離れるもんだから、椅子から落ちそうになってうおって言ってる。

体勢を直してから物凄く深いため息と共に俯いてしまったから、私はしゃがんで彼を見上げる。

「お前こそいいの?」
「いいのって何が?」
「お前から見たら俺なんてただのおっさんだろ?」
「うん」
「そこはそんなこと無いって言えよ」
「そんなことないよ」

遅えよって寝癖頭をガシガシ掻いて、もう一度大きなため息。
私の前髪を黒尾くんの長い指が絡めとってくるくるとする。その度に指がおでこにちょっとだけ触れてドキドキする。

「女子大生って、女子高生よりエッチな響きがするね?」
「…花田は何が言いたいのかな?」
「先生、女子大生はお嫌いですか?」

あぁくそって天を見上げた黒尾くんは観念したとばかりに白状する。
大好きに決まってんだろ、と。



20150107
mae ato
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