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このムカムカの原因なんて一つしか思いつかないし、かと言ってそれをぶつけられる場所が無いので、こじれる一方だ。
こういう時に限って、天気はすこぶる良く、嫌味みたいに気持ちの良さそうな日差しが邪魔くさい。

授業は身に入るわけもなく、指先でペンを回して、早く時間よ過ぎろと願うばかり。
あぁ、バレーがしたい。ボールを打って打って打ちまくれば、少しは発散出来そうなのに。

「及川くん、大丈夫?」

細心の注意を払ったみたいな囁きは、隣の席の花田さんのものだ。
彼女は机に前傾して、こちらを心配そうに見ていた。

「大丈夫って何が?」

俺が不機嫌な顔こそすれば、それを気にするやつが約二名。でもその約二名のせいでモヤモヤさせられているのだから、いっそぶちまけてしまおうか、と何度も葛藤していたここ数日。
ポーカーフェイスは苦手ではない。だから表情にも態度にも出してはいないはずだ。
つまり、隣の彼女から大丈夫?と心配されるような覚えはない。

「…幼馴染に振られた挙げ句、その子が岩泉くんと付き合ったって噂だから」

花田さんは一瞬考えた後、そんな一言を俺に寄越した。
ガツンと頭を殴られた気分だ。

「ま、待って、え?噂ってなに?噂って本当に?」

コクリと静かに頷いて、左手の人差し指を唇に押し当てた彼女は、視線を前方にそらす。
その視線を追うと、教科担任がジロリ、こちらを見ていた。慌てて姿勢を正して教科書に顔を埋めると、ゴホンと咳払いをして背中を向ける教科担任の姿を確認した。

「一つ、訂正するけどさ」

声を潜めて彼女に話しかけると、ゆっくりとこちらを向く。

「付き合ってないんだ、あの2人。俺って振られ損だと思わない?」

俺を振ったくせに。両想いのくせに。
まだ、付き合わないと宣言をされた。
だから腹が立つのだ。よく考えた結果だと言えば許されると思ってるところもムカつくし、遠慮をして付き合わないのでは無く、あの子の事だから、本当に色々考えて最善と思った結果なんだと思う。それも岩ちゃんにとっての最善って所が、もうお前は部外者ですからと言われたみたいで腹が立つし、女々しいと言われても腹が立つから仕方が無い。とにかく腹が立つのだ。

こんなみっともない、当たりようの無い怒りが腹の中でグツグツと沸き立つ。
平静を装うのも楽ではない。だから早くバレーをしたくて、なのに時間が経つのが遅すぎて。

あぁ、なるほどと花田さんは小さく頷くと、またさっきみたいに机に前傾する。

「寂しくて悔しいんだね及川くん」

ふふっと笑みを一つ零して、彼女は姿勢を正す。椅子に浅く腰掛けて、背筋をピンと伸ばす。まるで授業態度の模範みたいな姿だった。

「私も一つ訂正する」

「訂正?」

「さっきの、振られたのが噂になってるっていうのは嘘」

え?と自分で出そうとした声より倍大きな声が出て、とうとう教科担任に名前を呼ばれて怒られた。
クスクスと言う笑いがクラスに起きている中で、ハッキリと一言だけ。

「私が及川くんを好きだから、知ってただけ」

アルト気味の声は、周りの音にかき消される事なく、心地よく俺の耳に届く。
模範のような姿勢のまま、彼女はこちらを見向きもしない。耳が少し赤くなっているように見えたのは気のせいでは無いはずだ。

気がつけば腹の中のグツグツしたものは治まっていて、差し込む日差しも邪魔ではなく、隣の彼女の姿にただ見惚れていた。


20141130
mae ato
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