56/79

※大学生設定


通話終了を押すと同時に視線を感じるので、それを追うと呆れた目つきの夢子。この顔だけで言いたいことはほぼわかる。

「また月島くんの事からかって」

子供じゃないんだからと、俺が脱ぎ散らかした靴下を拾って洗濯機に放り込む。
靴下の事を怒るよりも、月島くんに謝っておいた方がいいよ?と心配するあたりが彼女らしい。

通販で購入したというクリーム色のラグは、値段のせいか、フローリングの上でよく滑る。ベッドを背もたれに座る度に、ズルズルとずれるので意味があるかは疑問だ。

「鉄くんがそこに座るとずれるんだってば」

俺を押しのけながらラグを直すわ、ラグを直しながら俺を押しのけるわ、昔の可愛さは一体どこへ行ったんだ。

付き合いたての頃、彼女は一番のコンプレックスでもあった赤面症で悩んでいて、俺の一挙一動でよく赤くなっていた。

「お前最近冷たいよな」

傷ついたわぁ、とベッドに背中を預けると、彼女が直したばかりのラグはズリズリと、またしてもずれる。

「隣部屋の男ともいつの間にか仲良くなってるしよぉ…」

先日、一緒にコンビニに行こうとドアから出ると、帰宅したばかりの隣人と鉢合わせした。その時彼女はよそ行き声で挨拶をして、隣人はそれに答えてじゃあまた、と言ったのだ。またってなんだよ、おい。挨拶なのはわかってはいても、面白くない。

派手にため息をついて、両手で顔を覆いつつ彼女の様子を伺うと、俺の横にすっと腰を下ろす気配。

シャツの裾をツン、と引っ張りながら怒ってる?と聞いてくる。いや、怒ってねえけど。心で思いながら無言でいると、彼女からは焦った空気が伝わってくる。

「ご、ごめん」

「何に対してのごめん?」

「…わかんないけど」

「お前は理由もわかんないのに謝るの?」

じっと見つめて言えば、しゅんと小さくなる。かわいそうかな?とチラッと思ったものの、もう少しだけいじめたい願望が出た。
ちょっとここにおいで、と自分の腹を指差すと、意味がわからず眉間に皺を寄せる夢子。

「早く来いって」

強引に腕を引っ張り腹の上に跨らせて、彼女から見下ろされる体勢に収まる。
今日は大学が無いからか、化粧っ気が無い。俺としてはこっちの方が見慣れているし、安心する。なのに、夢子ときたら、大学生になった途端、化粧を覚えて、色気づきやがって。
心配をして何が悪い。

じっと下から見つめ過ぎたせいか、彼女は不安げな顔をする。

「赤くならなくなったな、お前」

「ほんと!?」

「前は好きって言う度に赤くなって、呼び方変えたり、手繋いだり、キスしては赤くなってさ、セック」

言い切る前に、うわあ!と言う大きな声と彼女の小さな手の平が俺の口を塞ぐ。

「夢子、これ完全に誘ってるから」

思わずそう言わずにいられないような体勢。
俺の口を両手で塞いだせいで前のめりになり、夢子の顔は俺の胸の位置。なので、かなりの密着度で、俺としてはかなりのラッキーだけど。

「なあって」

聞いてるか?と、右手で夢子の前髪をすくう。形のキレイなおでこは赤く染まっていて、よく見るとチラリと見えた首筋までわかりやすいくらい真っ赤になっている。

「夢子、もしかして久々に赤くなってね?」

「なってない」

「いやでも、首すげえ真っ赤なんだけど」

「気のせい」

「じゃあ顔上げてみろよ」

ピクリと肩が跳ねて、消えそうな声で嫌ですと聞こえた。

「じゃあ、ちゅーしたいから顔上げてみ?」

「あとで!」

俺の胸に顔を埋めたまま、意地でも動かないつもりなのかよ。素直じゃねえな。まあ、そういう所もかわいいんだけど。

「いいいいいい今、そそそそそそそそういう事言うのずるい!」

どうやら心の声が漏れていた様で、俺の上で更に彼女の体温が上がった気がした。



20141203
mae ato
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -