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少し高めの位置で結ばれた髪の束が、歩く度に右、左、右、左とリズムよく揺れる。ポニーテールとはよく言ったものだと感心して見ていると、くるりと振り向いた彼女が勢いよく駆けてきた。それはもう、もの凄い勢いだ。

「月島先輩、こんにちは!」

「こんにちは」

効果音つきで顔を輝かせる花田はジャージ姿だ。

「体育だったの?」

「はい!もう面倒だからこのまま帰ろうかなと思って」

「いや、それは着替えた方がいいんじゃないの?」

何かある度に抱きつこうとするのは、彼女の悪い癖の一つだ。今も先輩に注意された!と両手を広げて飛びつく寸前で、咄嗟に避けたけど。
その時に彼女の頭で揺れる尻尾が気になって、毛先をツンと引っ張ると、男らしいうおっと言う声。

「い、いきなりなんですか」

「花田が髪まとめてるの珍しいなと思って。いつも下ろしてるデショ」

「体育の時は邪魔だから纏めるんですよ」

くりんと頭を振って髪を揺らす彼女が笑うのを見てイタズラ心が芽生えたのは、シャンプーの香りがして、ちょっとだけドキリとさせられて仕返しだ。

「前から思ってたんだけど、花田ってスキンシップ多いくせに、僕から触られるの苦手だよね」

じり、と距離を詰めると、同じだけ彼女も後ろに下がる。

「いや、いきなり触られたら誰だってビックリしますから」

もう一歩距離を詰めると、また一歩花田が下がる。

「そのセリフを君が言うの?」

壁と彼女の距離が0p、僕と彼女の距離は約10p。見下ろすと、ちょうど彼女のつむじが見える。見える範囲の肌色が赤くなっているので、きっと顔も相当に赤いハズ。

「ちょっと顔上げてみてよ」

「いやいや、無理ですよ!めっちゃ顔近いもん!ムリ!」

ぶんぶん頭を振れば振るほど、頭の尻尾が後を追って動く。

「ファーストキスを捧げてまで慰めたいって言ったくせに?」

「い!言いましたけど…」

「そういえば最近僕に好きって言わなくなったよね?」

「それは、アレですよ、押してダメならっていう作戦に変更したんです…」

少し前に本人からそう宣言されていたので、もちろん全部知ってる。
そして言われなくなってから、物足りなさを感じたのは悔しいけど事実だ。

「顔上げてよ」

「ムリですってば。てゆーか先輩どいてください。近すぎて本当にムリです」

「僕もムリです」

気付けばあれから3か月以上が経っていて、季節も変わっていた。
彼女が僕を見つけるより先に花田を見つける事が出来るようになっていて、うるさく追ってこられるのにも慣れてきた。
相変わらず壁と僕の間に挟まれて花田はずっとうつむいたままだ。

「花田、好きだよ」

ようやく見上げてくれた顔はとても間抜けで可愛くて。
まずは積極的なのか照れ屋なのか、とりあえずはっきりさせたいところだけど。



20141108
mae ato
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