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カッコいいよねとか、優しそうだよね、とか孝支のイメージはそんな感じ。いいなあと友人に羨ましがられる程だ。
もちろん、私にはもったいない位の自慢の彼氏なのだけど、一つだけ、みんなが知らない事といえば。

「夢子今日チャリで来たの?」

人の好さそうに見える眉毛を片方だけ上げて、私の濡れた制服をタオルで拭いてくれている。
多分ここで孝支のタオルが汚れちゃうからと言えば、もっとひどい目に合うのが目に見えているので、黙って拭いてもらっている。
そんな彼は私に跪く様な姿勢だ。これでいつも通りの孝支ならニコニコしていて王子様に見えなくもないけど、どこの世界に片眉を吊り上げた般若みたいな王子様がいるでしょうか。

「家出た時は雨降ってなくて、自転車乗り始めたらざざーってなっちゃって」

「降ってから戻ってもお前ん家からなら歩いても余裕だべ」

水気を取るパンパンというタオルの乾いた音が厭に響くし、彼は彼でこっちを見向きもしないのがとても怖い。

「折り畳み持ってたし、大丈夫かなーって」

さっきまで下にあった目線が急に上になった。彼が立ち上がって般若みたいな顔をする。こんなの菅原孝支ファンが見たら気絶すると思う。一番気絶しそうなのそもそも私ですけど。

「雨の中チャリな上に、傘さして来たって?それ普通に考えて危ないべ」

「でも、」

「でもじゃない。転んで怪我でもしたらどうすんだ」

「だって、」

「だってじゃない。こんなに濡れて、風邪ひいても知らないからな」

私の事を思って怒ってくれているのはわかっているし、そういう所も含めて彼の優しさなんだけど、でもだってと言いたい理由が私にもある。

「最近すれ違ってたし、まもとに会えてないなって思って、そりゃラインとかはしてくれてたけど」

練習や勉強でクタクタの彼とまともに会えるのは、学校にいる数時間の間だけ。それだってタイミングが合わなければ、まったく会えない日だってある。寂しくないようにと、自分の時間を削ってまで連絡をしてくれる彼に申し訳ないなと思っていた。

「朝練、私が早起きすれば、少し位会えるかなって思って」

そうしたらタイミング悪く雨に当たってしまい、彼にはいらぬ心配をかけ、更には般若の形相である。ことごとくバカ過ぎて壁に頭を打ち付けたい気分だ。
彼を見るとバツの悪そうな顔をして頭をポリポリと掻いている。反省した時に見せる合図だということに気付いたのはここ最近。

「ごめん、一方的に怒りすぎた」

「いや私が悪いんだし」

「いや俺が最近」

「いやいや私が」

ヌッと現れた澤村くんが、いちゃつくなら余所でやりなさいよと私たちに告げる。そういえば私たちは体育館の入口に居たんでした、と中を覗くと、部員の子達がニヤニヤしながらこっちを見ている。
お互い顔を見合わせて笑ってから、お昼ご飯の約束をして、もう少しだけ彼の練習を見ている事にした



20141110
mae ato
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