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相変わらずモテモテなんだね、と変な沈黙を壊す為に彼に言うと、うんまあねと隠すことなく肯定された。

「…すごいね」

「何が?」

「普通なら謙遜する所かなって」

「だって女の子にワーキャー言われたり告白されるのって日常だからモテないって言った方が厭味じゃない?」

「うーん…そうなんだろうけど…」

徹ちゃんにかかれば何でも厭味に聞こえてしまうから損な人だ。岩ちゃんが居たら絶対に殴られてそうだし。

「夢子立ち聞きなんて趣味悪いよ」

「岩ちゃんに及川探してくれって頼まれただけです!」

結果として立ち聞きになってしまったのだけど、しようと思ってした訳では断じてない。徹ちゃんを探し回っていて、運悪く告白されている現場に遭遇してしまったのだ。

女生徒の方は振られてしまったのか走り去って行って、私はその背中を見送る形になったのだけど、この幼なじみである及川徹には私も失恋をした過去があるためその背中に自分を重ねてしまい胸がチクリと痛んだ。もちろん私は彼女の様に告白する勇気すら持てなかったのだけど。

「徹ちゃんていつもあんな風に断ってるの?」

「あぁ、最近はね」

『今はバレーが一番優先。あと特別な子がいるから女の子としても一番に見てあげられないよ?』それでもいいの、というような言い方に女生徒の方は俯いてわかりました、と去って行った。顔は優しいのにどこか突き放す言葉が自分にも刺さるようで苦しかった。

「徹ちゃんて来るもの拒まずなんだと思ってたけど…」

「何それ!夢子俺の事なんだと思ってんの?」

彼は頬を膨らませて私を小突いてくるので、ごめんと言えばその掌はグーからパーに変わって私の頭を優しく包み、いいよと微笑まれた。

「女の子として一番に見れないって言うと大抵引いてくれるから楽なんだ」

「ちなみに特別な子というのは私のことでしょうか?」

「自覚があって良かった」

あれだけ過保護にされていて無自覚なんて質が悪い。特別扱いされるのは嬉しい反面、徹ちゃんの事を本気で好きになった人に申し訳ないという気持ちもある。私なんかが申し訳ないって思うのはおこがましいけれど。もちろん徹ちゃんに好きな人や彼女が出来れば応援しようという気持ちは常日頃持っているし出来る自信はある。

「…じゃあ1番じゃなくてもいいから付き合ってって言われたら?」

告白する勇気がある子ならそれなりに自信だってあるはずだ。その内私の事を一番好きだと言わせてみせる!位の気持ちの子だって中にはいるんじゃないだろうか。

「んー付き合うよ一応ね」

間を置かずにそう答えたので、不純と彼から一歩引く。そんな目でみないで傷つくから!と泡を食うのでだって、と続けた。

「誠実じゃないじゃん」

「そうだねえ。俺は女の子に不誠実なのかもしれない」

と彼は言う。

「バレーよりも私を構えとか、私のことをもっと見てとか、言われたら冷めちゃうんだよね」

だから振られちゃうんだけどね、と舌をペロと出すのでふざけているのか真剣なのか掴めない。確かに徹ちゃんは不誠実かもしれないけれど、女の子の方も彼を自分のステータスとしてしか見てない人もいたかもしれない。内と外のギャップが激しい人だからこそ、付き合ってみて何か違うという食い違いを埋めたくて女の子も必死だったかもしれない。そう考えればどちらも悪くて、どちらも悪くないのかな。

「夢子はさ、今俺に彼女が出来てもいいわけ?」

「寂しいけど応援します」

私たちは幼なじみだし口を出す権利は無い。私にしてくれているみたいに彼女を最大限に甘やかして特別扱いして欲しいと思っている。冷たいねお前は、と徹ちゃんは唇を突き出す。

「俺は嫌だよ。夢子に彼氏なんて出来たらそいつ殴っちゃうかも」

過保護ぶりも健在で、また認められる奴じゃないとなんて言い出しかねない。

「今のところそんな予定もないですから。それにこないだ金田一に2人が居る間に彼氏なんてぜってぇ出来ないぞって言われたし」

「卒業したら責任をもって金田一に見張らせるね」

それでは一生彼氏なんて作れないと文句を言うと、嫁に行き遅れたら貰ってあげるとニッコリ笑顔。

「…うさんくさい」

「この笑顔に惚れたくせに?」

昔の傷を抉られて恥ずかしさで赤くなると、照れてんの?と顔を覗き込まれる。そしてじゃあさ、と少しだけ真剣な目で見つめられた。

「例えば岩ちゃんに彼女が出来たら、夢子どうする?」

「……寂しいけど…」

「けど?」

「岩ちゃんが女の人と付き合うってイメージわかないから…うーんわかんない」

岩ちゃんだって十分素敵だ。実際うちのクラスの子がカッコイイと騒いでいたし。けれど、どうしても岩ちゃんが女の人と手を繋いだり、付き合うというのがピンとこないのだ。

「徹ちゃんよりも真面目だからかな」

「む。俺だって岩ちゃんより真面目ですー」

「きっとその言葉信じてくれる人、いないんじゃないかな」

夢子ちゃ〜ん、と情けない声を出すのでごめんね、と言えばまた大きな手の平が頭を優しく包んで、いいよと言ってくれる。

遠くから岩ちゃんの徹ちゃんを呼ぶ怒鳴り声が聞こえて、私は徹ちゃんを連れてくるように頼まれていたのを思い出して青ざめた。

「どうしよう!岩ちゃんの事忘れてた!」

そんな私に大丈夫、と徹ちゃんは微笑む。

「どうせ岩ちゃんはお前を怒ったりしないよ」

怒られるのは俺の役目だからねと言って、ハイハイ及川さんはここですよ〜と小走りに去って行く。かと思えば少し先でこちらを振り向いた徹ちゃん。

「さっき事、本気にしてくれてもいいからね」

「なんのこと?」

「お前が行き遅れたら徹ちゃんが貰ってあげるってやつ」

「それはどうも。でも行遅れないように努力するし」

そう答えると徹ちゃんは肩を竦めて背中をむける。岩ちゃんと行くから校門で待ってな。いつも通りのその言葉が少しだけ拗ねて聞こえた気がして、彼の姿が見えなくなるまで見つめてた。



20141005
mae ato
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