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バレーをしようと公園に向かおうとする度に夢子が付いてくる。お姫様ごっこをしてくれるまで帰らないと見た目の割に強情で、俺は仕方なく遊んでやっていた。及川もそれに付き合う事が多く、それが終わらないとバレーが出来ない位の認識だったかもしれない。

ある日、俺は同級生に『男のくせに女と遊ぶなんてダッセー』とからかわれた。及川は気にするなよ岩ちゃんと言ったが、俺はそうか女と遊ぶのはダセぇのかと傷ついた。今にして思えばあの同級生は羨ましかっただけなのかもしれないが、当時の俺にはかなり鋭くその言葉が刺さったのだ。

悪いなという気持ちもあったが、そんな遊びは女同志で遊んだ方が楽しいんだからと言い聞かせて、俺は男友達と遊ぶ事を優先していった。及川が適当にフォローしてくれるだろうという甘えもあったかもしれない。夢子が中学に上がった頃にはすれ違っても会釈する位の仲になっていた。及川ですら少し話す程度だったようで、いくら幼なじみといえども女と男だとこんなもんかな、と思うようになっていた。

ガキだと思っていた夢子は突如、俺の前に女になって現れた。アイツが入学するまで思い出す事もなくなっていた位、疎遠になっていたというのに、俺たち2人が居るからという理由だけで青城まで来たのだ。そこまで慕ってくれていたのかと、その想いに気付いて守ってやらねばという使命感が生まれたのかもしれない。

普段、部活のある日は遅くなってしまうので一緒には帰らないのだが、委員会があるから待ってるといってきかない夢子を教室まで迎えに行く。及川も当然来たがったが監督に呼ばれて時間が掛りそうだったので無視することにした。

1年の教室は数クラス明かりがついていたが肝心のアイツのクラスは真っ暗だ。『教室で待ってるね』と宣言していたので先に帰った訳はないだろうと明かりをつけると教室の真ん中あたりで寝ている姿をみつけた。

「夢子終わったぞ」

声を掛けても反応しないので肩に手を置くと、思いのほか制服が冷えている。どれだけ長時間ここでこうしていたのだろうか。

「風邪ひいちまうぞ。ほら起きろ」

それでも起きる気配がない。そういえばガキの頃から寝付くとなかなか起きなかったか、と思い出す。ため息を一つ落として俺は夢子の前の席に腰を下ろした。お情け程度に制服の上着をかけてやると、サラリと夢子の髪が落ちる。及川がよくコイツの頭撫でてんなと思いだし軽く触れると自分の髪との違いに驚き『うお』と情けない声が出た。女ってこんなに髪の毛やわらけえの?手に残る感触がくすぐったい。

俺の方に投げ出された手は白くて小さくて、おもちゃみたいだ。その指先に触れると制服同様に冷たい。部活終わりで上がった体温が残る自分の手の平で夢子の手を包むとしっかりと俺の手に収まるので笑ってしまう。成長したとは思っても体格差なのかこんなに小さいなんてと。

俺の体温を奪って温まった彼女の手を放すと、ん、と小さな声が聞こえた。

「おはようさん」

「岩ちゃん」

寝ちゃったんだね、なんて呑気に言うので頭を小突いて風邪ひくぞと言えば、ごめんなさいと素直なことだ。

「こっちこそ待たせて悪かったな。ほら荷物かせ」

「自分で持てます」

入学以来一度も持たせて貰えないカバンを重そうにヨイショと持ち上げるので強情さは相変わらずのようだ。

「…岩ちゃん、あのね、さっき、」

「あー!!いたぁぁ!!てゆうかなんで夢子岩ちゃんの上着着てんの?どうせなら俺の着なよもー!」

ようやく監督に解放されたのか馬鹿でかい及川の声で夢子の声がかき消されたので軽くどついた。

「うるせえぞクソ及川!で、なんだって?今なんか言いかけたろ」

「ううん。なんでもないよ。さ、帰ろうか。」

そうか?と言うと彼女は微笑むだけなのでそれ以上聞いても教えてくれないだろうな、と諦めた。




20141005
mae ato
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