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なんでこんな事をしているのかと言うと、待ち合わせ時間に姿を現さない西谷を部室まで迎えに来たからだ。外にまで漏れる騒がしい盛り上がりはどうやら王様ゲームのせいらしい。いつものストッパー役の澤村先輩は彼女と約束があるらしくいそいそと帰ってしまった様で、第二のストッパーの菅原先輩に至っては、何故か今日に限って2年バカコンビと同じ悪ノリをしていた。珍しい。彼女と喧嘩でもしたのかな。

「てゆうか、なんで王様ゲームなの」

隣の西谷が、日向と影山がやったこと無いって言うからさと、とてもいい笑顔。

「なんで私まで…」

反対隣の田中が、とか言いつつケツバット振ってたじゃねえかと悪い顔。

そりゃあやるからには何事も全力がモットーですからね。縁下が影山に容赦ないケツバットをしてくれたのは、影山にはかわいそうだけど腹筋崩壊した。あとでもう一回動画見よう。

「よし、時間的に次でラストなー」

菅原先輩がシメの一回と割り箸を差し出す。

「王様だ〜れ?」


次王様になったらケツバットアゲインでもしてやろうと思ったのに、どうやら王様ゲームの女神は私には微笑んでくれなかったらしい。そして王様はと言うと、普段のストッパーの役目を微塵も果たしていない菅原先輩だった。あれ、嫌な予感しかしない。先輩はニヤリと笑うと、

「1番が5番にチューしろ!」

と、合コンかよみたいなノリの事を言ってきたので吃驚する。冗談ですよね、と言えば本気だと返された。

ちらり、と手の中の割り箸を見るとハッキリ『1』と書いていた。まじか。誰だー早く手をあげなさーい、と何故か私を見てニヤニヤしているあたり狙ったんではないだろうかあの人。まじか。私はオズオズ手を上げると隣の西谷、ではなく反対隣の田中が5番を持って手を上げていた。まじか。

そんな田中を見て、あり?5番西谷だと思ったのに、と少し焦った菅原先輩を見るあたり、私と西谷にチューさせようとしていたらしい。ハッキリ言いますが、迷惑この上ないです。烏野のお母さん。

田中は私を見て、勘弁してくれよみたいな顔してるけど、こっちのセリフだからね。周りもこれはノーカウントでいんじゃねって雰囲気なので見逃してくれそうだ、なんて思っていたら『ちょっと待った!!』と今日一番大きな声。その声に部室内はシンと静まる。声の主は西谷だ。彼はスガさん、と菅原先輩に詰め寄ってその勢いに先輩は少したじろいでいた。

「俺と花田にチューさせようとしてくれたんすね。ありがとうございます。」

さすがスガさんっスと丁寧に頭を下げた。

「龍。お前にはホント申し訳ないんだけどよ、コイツは俺の女だ。俺以外の男に触れさせたくねえ。だから俺と5番変わってくれねえか」

頼む、と更に深く頭を下げる西谷に田中はいや、俺は、その、全然なんて珍しくしどろもどろしていた。そして私の目の前には西谷。ニカッと笑って変わってもらったから安心しろよ、なんて言う。くそ、かわいかっこいいな。

近づいてくる西谷を防ぐ事も出来ずにちゅ、と唇にはいつもの感触。啄むように何度も何度も下唇を甘噛みするのが西谷のいつものキスだ。それは突然始まったので目を閉じる暇もなかった。意思の強い瞳は私を捉えて離さない。ヤベ、と言う余裕の無い声の後にあっという間に反転して視界は西谷と天井だけだ。

温もりが一瞬離れた時にもう一度目が合い熱の籠った目で見つめられて全身が痺れる様な感覚に襲われる。夢子、と名前で呼ばれたあと唇に温もりが戻る。彼の舌が私のそれをからめとるので声が漏れてしまう。水音が頭に響いて、ふわりと浮く様な感覚が体にまとわりついて思考が停止してきたところで『ハイそこまで!!』という声と共に西谷が視界から消えた。

体が熱っぽくてボーっとしながらもゆっくり体を起こすと真っ赤になった田中が西谷を抱えているのが見えた。横を見ればその他にも真っ赤な顔をしているメンバーと何故が菅原先輩と縁下に目隠しをされている日向と影山が見えた。

西谷の感触の残る唇と触っていると周りが息を飲む音が聞こえたのと同時に、

「だめだ!見るなぁぁぁ」

という西谷の大きな声と共に彼の学ランが私の頭に降ってきて暗転する。





20141001


りぃちゃんネタ提供ありがとな。ついでに前言ってた普段は苗字、その時だけ名前呼びも盛り込んでみたw
mae ato
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