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 みんな君が大好きだよ・前編【フレン総受け】



朝、ユーリはふと目を覚ました。フレンが身支度をする音がしたからではなく、何の前触れもなく瞼が開いた。フレンが旅に加わってからは、気を張ることなく寝坊までする様になった自分が。
珍しいことに自らも首を傾げながらも、ユーリはのそりと起き上がった。隣のベッドは既に綺麗にされていて、その主であるフレンがもう起きていることを理解する。カーテンは開けられていて、朝の光が目に突き刺さる。
欠伸を一つしながら身支度を整え、ユーリは部屋の扉を開け放った。今回は二階に部屋が取れたので、ロビーである一階へと降りる為に階段を使う。何段か踏み出せば、一階の様子はおのずと見えてくる。

「……何だあれ」

今まさにその状況に居るユーリが、足を止めて不機嫌そうに言った。早朝だからか他の客は居らず、その一点から目を逸らすことは出来なかった。それだけが原因ではないのだが。
ロビーのソファに座っていたのは、いつもの礼服に鎧を付けていない姿のフレンであった。本に集中しているのは良いことだが、隣に居る人物にほんの少し腹が立ってしまう。仲間に嫉妬など、とユーリは思いながらもエステルを恨めしそうに見る。
何の因果かはわからないが、エステルはフレンの左肩に身体を傾けていた。漸く動かした足で近付いてみてわかったが、彼女は眠っているみたいだ。ついでに、彼の足元にラピードが居たことにも気が付いてしまった。
そういえば部屋に居なかったな、とフレンの隣を独占する相棒に悔しい気持ちを抱く。自分の居ない間に、傍らには彼へ好意を抱く人達が集まっているのだ。その内の一人である、誰よりも想いが重いユーリにしては深刻なことだ。

「ワン!」

「どうしたんだい、ラピード……って、あれ? ユーリじゃないか」

「悪かったな、来たのがオレで」

ラピードの鳴き声で気付いたのか、真剣に字を追っていた目がユーリに向いた。不機嫌さを吐き出す様に嫌味ったらしく言うと、そういうつもりで言った訳じゃないと眉が寄る。
流石に八つ当たりだということがわかっていたので、軽く謝罪の言葉を述べる。全くもうと言う風に溜息をつかれ、そうしたいのは自分の方だとユーリは思う。

「で? その状況はどういうことだ?」

「どういうって……あれ? どうしてエステリーゼ様が?」

「気付いてなかったのかよ」

やっと左肩にかかる体重に気付いたのか、フレンは疑問符を浮かべてエステルを見た。気配に聡い彼が彼女に気付かないなんて、それ程本に集中していたのか。それとも、気を抜いていたのか。
もし後者の方だとしたら、複雑だとユーリは思う。フレンが気を抜ける相手は、自分だけが良いと思っていたからだ。仲間達に気を許すのは一向に良いことだが、そこだけは譲れなかった。
そう薄ら暗いことを思っていたら、エステルが目を覚ました。瞼を軽く擦り、フレンとユーリに微笑みかける。

「お早うございます、フレンにユーリ。それとラピードも」

「お早うございます、エステリーゼ様」

「……おう」

歯切れの悪い返事をしたユーリを、不思議そうに見ているエステル。何でもない言う風に首を横に振ると、彼女は納得したのかフレンに向き直った。それをつまらなさそうに見ていたら、ラピードが溜息混じりに少し横へとずれてくれた。

「それはそうと済みません。勝手に、フレンの肩を借りて寝てしまって……」

「構いませんよ。それよりも、何時からここにいらっしゃったんですか?」

「数十分前、だったと思います。目が覚めて一階に降りてきたら、フレンが居たので。驚かせようと思って近付いたら、気付かれなくて……寝てしまいました」

随分と真剣に本を読んでいましたね、と続けるエステル。その指摘にフレンは頬を染め、気付けなかったことを一言詫びた。そんなふわふわとした会話を、ユーリは彼の隣に座りながら聞いていた。不貞腐れてしまったユーリに、ラピードが隣の席を譲ってくれたのだ。
真隣にユーリの気配があることを察したのか、フレンは振り返った。やっとのことかち合った空色に瞳に、現金にもユーリは先程までの機嫌の悪さがなくなってしまった。エステルの前だというのに、緩む頬を抑えることは出来なかった。

「やっぱり、ユーリは……」

それを見たエステルが、驚きに若葉色の瞳を見開いていた。呟きの意味を悟ったユーリは、彼女が落ち込むかと思っていた。何故なら、誰よりも強大な自分が恋敵だと知ってしまったから。
しかし、エステルは俯くどころかユーリをきっと睨みつけてきた。睨むなどという表現には劣る眼光だったが、その目には負けん気が溢れていた。フレンはそう簡単に渡しません、という所か。

「え、エステリーゼ様? そんな怖い顔をなされて、何かあったのですか?」

「い、いえ、何でもありません!」

エステルが怖い顔をするなど、常では有り得ないことだ。目を丸くしながら聞いてきたフレンに、彼女は慌てて取り繕った。
フレンを挟んでソファに座る二人は動こうとはしなかった。フレンは本を読む気にはなれず、ユーリとエステルから振られる話にただついて行くことしか出来なかった。
そうこうしている間に、時間が過ぎていたらしい。凛々の明星のメンバーの、陽気な声が一階から聞こえてきた。

「お早うなのじゃ〜、フレン!」

どたどたと騒がしく階段を降り、一番にフレンの元にやって来たのはパティであった。真正面から抱き着いて、もとい飛び込んできた彼女を受け止める。挨拶を返す顔には、微笑みが浮かんでいた。
拒まれないのを良いことに、パティはフレンの胸に頭を摺り寄せた。擽ったいと笑う彼を、エステルは羨ましそうに見ていた。

「フレンは温かいの〜、このまま寝てしまいそうじゃ」

「それは駄目だよ、折角起きたのに」

「パティ、あんた少しは静かにしなさいよ。起き抜けの頭に響くわ」

確かにそうだな、と次いで降ってきたリタの不機嫌そうな声にユーリは同意する。しっかりと二人の様子を見ていた彼は、少しだけ不服そうだ。いや、フレンとパティがくっついていたこともだ。
もう一つ気分が宜しくなくなる理由としては、リタがこの後するのであろう行動だ。そう思っている内に、彼女は憮然とした表情で組んでいた腕を崩した。そのままフレンの足元に腰を下ろし、持ってきたと思しき書物を開き始めた。
始まったとユーリは嘆息混じりに見やる。天邪鬼なリタは、エステルやパティ程素直な行動はしない。
そのことは彼としては良いことなのだが、たまに見せる惚れた弱みというか、心を許しているみたいな行動が少々妬けるのだ。普段、他人に心を開かない彼女がこうまでするからだ。今度はフレンを、エステルは羨望の眼差しで見ていた。自分もこうされたいのだろう。
忙しいことで、と他人事の様にエステルを見る。だがやはり、彼女にとって一番の敵はユーリなのだろう。リタのことは仕方ないと諦めて、依然フレンの隣に居る彼を不満そうに見ているからだ。



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