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 みんな君が大好きだよ・後編【フレン総受け】帝涜さまから30000HIT企画小説を4話戴きました



自分の周りに、急に人が集まってきたことに驚いているのだろう。フレンはおろおろとしながら、この状況をどう乗り切れば良いのか量りかねていた。

「起き抜けの頭については、どうこう言わないけれど。確かに静かにした方が良いわね。ここには、私達以外のお客も居るから」

いつの間にか来ていたのか、ジュディスはソファの後ろから現れた。己の言い分を指摘されたリタは、片眉を上げたが特に何を言うでもなく黙った。それにくすりと笑ってから、彼女は目の前に居るフレンに近寄った。

「でも、可愛らしい騎士様が取られていたと知ったら……逸りたくなる気持ちもわかるかもしれないわね」

「え、あ、あの……ジュディス!」

「止めてやれジュディ、困ってんだろ」

ジュディスの軽い言葉に、可愛いなんて言わないでくれという反論はなかった。何故なら、彼女が自らの豊満な胸を態と背中に押し付けていたからだ。それを理解しているユーリは、ぶっきらぼうに注意を促した。
その言葉にジュディスはすぐに離れたが、意外に心が狭いのねと言われてしまった。自分がフレンに対して、心が狭量になってしまうのは自覚済みだ。何とでも言え、と腕と脚を組んで内心が荒れていることを全面に出す。
それを不思議に思ったのか、フレンはユーリの機嫌を窺おうとした。だが、それは左隣に居たエステルによって阻まれてしまった。

「……狡いです。皆、狡いです! 私だって、フレンにくっつきたいです!」

「え、ええエステリーゼ様!? 何を言って……!」

「じゃあ、オレもそうさせて貰うぜっと」

「ゆ、ユーリまで! い、一体皆はどうしたんだ……?」

今までの女子メンバーの行いを見て、エステルは我慢ならなかったみたいだ。頬を染めて慌て、やんわりと断りを入れようとしている、フレンの言葉を無視して彼の腕に抱き着いた。
これには静観していたユーリも堪らず(エステルと、さりげなく脚に擦り寄るラピードが原因だ)、フレンの首に腕を回して抱き締めた。彼を挟んでエステルと火花を散らし、それを見ていたジュディスは楽しそうに笑みを零していた。

「あーらら、フレンちゃん楽しそうなことしてるわねー」

「れ、レイヴンさん! これが楽しそうに見えますか!?」

最後にのこのこと現れたレイヴンが、ユーリの隣の空いたスペースに座った。仲間達に囲まれる、人気者のフレンを茶化しながらもその顔はだらしない。
現在、何が何だかわかっていないのはフレンだけであった。どうすれば良いのかと、手持無沙汰な腕を虚空に彷徨わせながらレイヴンに強く言い返す。彼の澄んだ空色は潤んでいて、紅潮した頬も相俟って可愛らしい。

「んー、そう見えるわよ? ね、おっさんも混ぜ……」

「フレンに触るな。指一本触れた瞬間、殴るからな」

「何その扱いの差!?」

あわよくばとフレンに絡もうとしたレイヴンを、ユーリは鋭く睨んだ。自分は許容範囲外だと知って、青年酷いと涙目で叫ぶがリタにおっさんうざいと言われてしまった。黙らざるを得なくなった、良い歳をした三十五歳はソファの上で三角座りをし始めた。
いじけてしまったレイヴンに、フレンはどうしようとあたふたとしていた。誰もフォローしない中でも、彼は尊敬するレイヴンが落ち込んでいるのを見て気を遣っているのだ。
自分だけを見ろと言う風に、ユーリはフレンを強く抱き締めた。訝しげにしている彼は、何故ユーリが腕の力を強めたのか理解出来なかった。
子供っぽい独占欲を露わにしているユーリは、フレンの表情を見て本当に小さく溜息をついた。急に臍を曲げてしまった、くらいにしか彼は認識をしていないみたいだと知ったからだ。

「……うわぁ、僕が居ない間に凄いことになってるよ」

そんな中、唯一この場に居なかったカロルがメンバーを遠巻きに見て呟いた。まばらに客がロビーに集まってくる中、皆はフレンを囲んだまま動く気配がないのも考え様だと彼は思った。
ユーリ同様、フレンに憧れているカロルはこの光景はどうかと思いながらも、その中に混ざりたいと内心は正直に呟いていた。だが、邪魔をした時の雰囲気や周りの目を気にすると、どうにも傍観することしか出来なかった。
ソファから距離を置くカロルを、フレンは様子を窺う様に見つめていた。どう声をかけて良いのか、考えあぐねているみたいだ。それに気付いたユーリは、溜息を一つついた後彼の耳元に唇を寄せる。

「こっちに来いって、カロルに言ってやれ」

「でも、カロルは僕達に呆れているみたいで……」

「そんなの嘘だってわかってるだろ? ほら、呼んでやれよ」

オレは、これ以上人が増えるのはごめんだがな。そう零した後に憮然とした顔を逸らし、腕を組むユーリの姿に笑みが零れた。まだ少し機嫌が悪いみたいだが、それでも人のことを思いやれる彼の優しさが、変わらないことを嬉しく思ったからだ。

「パティにリタ、少しそこを避けてくれないかい?」

フレンのお願いを聞いたパティは彼の膝から飛び降り、リタは少しだけ座る位置をずらした。カロルを呼べと言ったのに、言葉通りではない突拍子のない行動に出た彼にユーリは驚く。
急に消えた温もりに、反射的にフレンを呼び止めようと口が開く。だが、ユーリの喉は声を発することはなかった。

「皆、カロルの所に行こう? 待つより行った方が早いし、何よりそこにずっと居るのは躊躇われるからね」

振り返ったフレンの微笑みが、春の陽光の様に穏やかで優しかったからだ。声を失ってしまう程に、彼の表情に見惚れてしまったのは一体誰なのか。その答えは考えなくてもわかる、つい先程まで彼の傍に居た全員だ。
踵を返して歩き出したフレンが、カロルの所に向かった所でユーリは我に返った。カロルの頭を撫でる彼を見てから、横目で皆の様子を確認する。頬を赤くする、つられて笑う、にやけると沢山の反応が見られた(最後の反応をした誰かさんは、後で殴ると決める)。
各々の感慨に浸っている所を、好機だと見てユーリは立ち上がった。飄々と足取りでフレンの元に行き、普段は鎧で隠されている肩に腕を組んで引き寄せる。

「相変わらず人気者だな、フレンさんは。オレは心配で堪らねぇよ」

「一体、君は何の心配をするというんだい。というか、僕なんかが人気者な訳ないよ」

ユーリの言葉をからかいと受け取ったのか、フレンは苦笑をしながら軽く言い返してきた。鈍感すぎるのも危険だと、ユーリは彼のこの先が心配になった。
というよりも、誰の想いが報われないことが残念に思った。誰かの隣に行くことはないので良いのだが、自分の恋心が実らないことも如何せん空しいと思った。

(……ま、そうなっても絶対落としてやる)

そう、皆に好かれている騎士団長様にユーリは宣戦布告した。一見悪い顔とも見える彼を、無垢な顔で不思議そうに覗き込む団長殿は誰の隣に行くのか。その答えは二人にも、二人の背後から文句を垂らしながら来る仲間達も知らない。



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