「……べつに、そんなこと思ってナーイよ。まあ広夢ちゃんが作ってくれたほうが美味しいのは確かだけどー」
「はげど。じゃあ会計、今日はどーすんの? 広夢君が今日は三人くるって言ってたから、いちお人数分は用意してるけど。でも俺の料理あんた食いたくないっしょ? どーすっかな。明日の朝飯にまわすか……。あん? てかここに来る奴らはみんな広夢君のゴハンが目当てなんだから、俺がみんなのぶん用意する必要なくね? やべえここにきて衝撃の事実発覚じゃね?」

 縞クンはぶつぶつ独り言を言いながら夕飯の支度をすすめている。トレイに一人分の食事を準備している様子から、どうやら広夢ちゃんが帰ってくるのを待つつもりはないらしく、先に食べるみたいだ。

「……食べる」
「はい? なんか言った?」
「だーから、せっかく作ってくれたんだからぁ、俺も食べてあげるって言ってんのー」
「無理すんなって会計さん」
「っ、無理とかじゃなくて」
「いーからいーから。いただきまんもす」
「ちょっと縞クンっ」

 俺を無視してのんきに食事を始める縞クンに腹が立つ。なんでこの子この状況で普通にゴハン食べれるの。俺に構われたい人間なんか掃いて捨てるほどいるのに。二人きりのこんな状況で、平然と、むしろ俺を蔑ろにして。ムカつく!

「食べるって言ってんじゃん!」

 あまりにムカついたので、俺は縞クンのトレイを横からかっさらってやった。さらに箸まで奪い取る。

「うっわテメェこのやろ、ひとの食いかけのメシ強奪するとか何考えてんだ!」
「はあ? 先輩に向かってテメェとか言うなんてナマイキー」
「へいへい、すんまっせんね会計パイセーン。メシ返しやがれくださーい」
「何言ってるか全然わかんないんだけど。日本語しゃべってくれるぅ?」

 今日のゴハンは、塩コショウ味の焼いただけの肉とわかめのみそ汁と白米だった。黒っぽい塊を口に入れる。硬くて少し苦い。こんな美味しくない肉を食べたのは生まれて初めてだ。

「……なにこれマズい」
「俺のご馳走になんてこと言うのあんた」
「ねえこのみそ汁って何味?」
「ねえみそ味以外のみそ汁ってこの世にあるの?」
「だってみその味なんてしないよー?」
「そんなバカな」

 縞クンは驚愕したような顔で俺からおわんを奪い取り、ひと口飲んだ。

 そして神妙な顔をしてそっと俺におわんを返してきた。あ、普通に返すんだ。

「――うむ、これみそ入れ忘れてるねてへぺろ」
「キミ料理の才能ないよー」
「文句あんなら食うなっての」
「……食べるし」

 噛み切れない焦げた硬い肉を、謎のわかめ汁で無理やり流し込む。唯一まともな白米が無性に美味しく感じる。米ってこんなに美味しかったんだねぇ……。

「ただいまー! あれ? 瑛介もう来てたのかよ!」

 改めて自分のぶんの食事を用意してきた縞クンと二人で夕飯を食べていると、広夢ちゃんが騒々しく帰ってきた。

 その声でハッとした。俺は何をのんきに嫌いな縞クンと並んでゴハンなんか食べてるんだ。広夢ちゃんも待たずに。

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