「おかえり広夢君。んでお二人さんいらっさい」

 広夢ちゃんはクラスメートだという嘘臭いくらい爽やかな男と、目つきの悪い不良っぽい男を連れていた。
 どうでもいいけど、二年生しかいないこの空間で自分だけ年上ってなんかビミョーね。

「……チッ、またテメェもいんのかよ平凡。ウゼェ」
「おまえバカなの狼さん。ここ俺の部屋なんだわ」
「狼さん言うな!」
「縞ぁ、おまえもうメシ食ってんのかよー。ちょっとくらい待ってくれてたっていいじゃん」
「いやおまえらを待つ意味」

 不良と爽やかに絡まれても適当に受け流す縞クン。慣れてるっぽい。
 そんな様子に、なんだか胸の奥がちりっと熱くなった気がした。

「二人とも、優生のメシの邪魔してないで、ほら俺たちも食おうぜ! いただきまーす!」

 縞クンが作ったマズい食事を人数分てきぱきと並べ終えた広夢ちゃんが、元気に行儀よく手を合わせて挨拶している。可愛いなあと思う。つられるように慌てて手を合わせる不良と、ニコニコ笑いながら「なんだこれ炭?」とか言ってる爽やか。……ひどいな爽やか。

「な、今日のメシ、作ったの縞だろ?」
「炭発言のあとにそれを断定してくるおまえはもう爽やかじゃねーよ爽やか君」
「……なんでこの肉こんな薄っぺらいのにかてぇんだよ、フザケンナ」
「我が家のステーキは昔からこんなもんですぅ」
「ステーキ……だと? これがステーキ……?」
「あはは、まっずいみそ汁だなこれ!」
「ちと待て爽やか君なんでこれがみそ汁だとわかった?」
「俺もわかったぜ優生! 優生のことだからどうせみそ入れ忘れたとかだろ?」
「……やべえこいつら俺を知りすぎている」
「あったり前だろ! ダチなんだから!」

 もさっとした髪の下で広夢ちゃんがにっかり笑っているのがわかった。ホントに裏表のない、純粋な子だな思う。

 ていうか、不良も爽やかも文句を言いながらも、食べないという選択肢はないみたいだ。不良は顔をしかめながら、爽やかはニコニコ笑いながらどんどん食べ進めている。広夢ちゃんは文句も言わずに美味しそうに食べている。

 マズいなら食べなきゃいいのに、なんて思ったが、やぶへびになりそうだったので何も言わなかった。

「ごっそーさん」

 早々に食べ終えた縞クンは、食器を片し、一旦自分の寝室に戻ったけどまたすぐに出てきた。その手にはノートやプリントが握られている。

「優生どっか行くのか!?」
「いえっす! レッツホームワークの時間でぇす」
「どうせまた誰かに写させてもらうんだろ? ズルいぞ優生! あとで俺にも見せて!」
「ノンノン。俺はこのために多大な犠牲を払ってんだぜ? そう簡単に見せてなんてやりませんよーだ」

 にまにまと笑いながら縞クンはさっさと行ってしまった。

 縞クンが出て行ったドアをなんとなくじっと見つめる。
 すると、すぐに広夢ちゃんに話しかけられて意識が引き戻される。広夢ちゃんが俺に構うことに嫉妬したらしい不良や爽やかが突っかかってくるのを適当にからかってあしらう。

 そんないつも通りの流れの中に物足りなさを感じるが、それもまたいつものこと。俺には広夢ちゃんさえいればいいはずなのに。なのに……満たされない。

 好きな人が目の前にいるのに、なんでこんなにもあの背中の行方が気になるのか。
 今どこで誰と何をしているんだとか、そんなどうでもいいことを考えるのをやめられないのはどうしてか。

 いつだって、近くにいてもいなくても俺を乱す縞優生という存在が、やっぱり俺は嫌いだと思った。

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