半袖に短パンというラフな部屋着の上に、モスグリーンのシンプルなエプロンをつけている縞クン。え、何この状況。
「どしたの会計、固まっちまって。あ、もしかしてアレ待ち的な? しゃーねーっすね。やってやりますよ」
そう言ってパタンと閉じられるドア。
なんで。え? 締め出されたの俺? 帰れってこと? どうしたらいいの?
脳内で大混乱していると、またガチャリとドアが開いた。
「おかえりなさーいあなた! ゴハンにする? お風呂にする? それともぉ、わ、た、し?」
やり過ぎなくらいの上目遣いで、きゅるるんという効果音がつきそうなくらい可愛らしく笑いながら、こてんとあざとく首を傾げる目の前の縞クンに、俺は今度こそ本当に言葉を失った。
「なんちって!……て、おーい、会計さんやーい。ここで無反応はドイヒーだから。ノるかツッコむかしてくんないと俺がとても痛々しいかんね?」
「え……あ、うん」
「まあいーや。とりあえずお上がりなすってくんさい」
「うん……」
エプロン姿の縞クンに促されるままに部屋に入る。
玄関には縞クンのと思われるローファーとサンダルしかなかった。
「……広夢ちゃんは? いないの?」
「広夢君なら爽やか君たちと遊ぶっつって出てったよ。夕飯の時間には帰るって言ってたから、もうすぐ帰ってくんじゃね?」
縞クンはキッチンに立ち、何やら道具を使って鍋をかき回している。
その珍しいというか、初めてみる姿に、俺はリビングに行かずに縞クンの後ろに突っ立っている。
「ねえ、縞クン何してるの……?」
「見てわかるっしょ」
「……キミ、料理とかできるんだぁ」
「今どき男だって料理くらいできなきゃモテねーんだよ」
「でも、いつもは広夢ちゃんが作ってるんでしょー? どうして今日は縞クンなの 」
「あ? べつに今日だけじゃないっすよ。広夢君と俺、いつも日替わりで交代しながら作ってるし。あんたもたぶん俺のゴハン食べたことあると思うよ」
「え――」
この部屋に夕飯を食べにくるようになったのは、広夢ちゃんが自炊をしてると知ったから。だからてっきり毎日広夢ちゃんが作っていると思っていた。
「……どの日?」
「何が?」
縞クンはこっちを見ることなく、フライパンとかいうやつで肉を焼いている。
「縞クンが作った料理がでたのは、いつ?」
「えええ、そんなん覚えてるわけないじゃん。……あーでも、和食の日はだいたい俺だよ。広夢君はオサレで手の込んだもん作ってくれっけど、俺は簡単な和食くらいしかできねーから」
「和食……」
そういえば、たまに何度かあったかもしれない。明らかに手を抜いたような、質素というかみすぼらしいメニューの日が。焼き過ぎた魚とご飯だけとか。ご飯の上におかずを載せた変な料理とか(あとから知ったが、あれは丼物というらしい)。
そっか、あれは縞クンが作っていたのか……。
「もしかして言わないほうが良かった?」
「え? なんで?」
「や、だってさ、あんたらみんな俺のこと嫌いだろ? 知らず知らずのうちに嫌いな人間の作ったゴハン食べてたって知って、気分わりーとか思ってんじゃねーんすか?」
「そんなこと……っ」
勢い込んで否定しようとして、何をそんなに慌てる必要があるんだと思い、すぐに我にかえる。