プロローグ ピッ、ピッ、と静寂の中に響く機械音。 これが止めば、確実な死を意味する。 その音の中で、二人の人間が小さく機械音に気圧されるように会話をしていた。 「正義さん。」 一人は女だ。 大分歳をとっているが、まだまだ動けそうな雰囲気がある。 「正義、さん…。」 「…××か、」 もう一人は男だ。 こちらも歳をとっており、床に伏せっている。 呼吸器をつけてないと会話もできないみたいだ。 正義、と呼ばれた男は女に手を伸ばし、女はそれをひし、と握った。 どうやら夫婦のようだ。 「正義さん、」 座っていた女はベッドへに近づき、正義の顔を焼き付けるように見つめる。 「ま、さよしさ…っ!」 耐えきれなくなった女はぼろぼろと静かに涙を溢す。 「××、悪いな、もう、それも拭ってやれそうに、ない。」 正義は手を伸ばそうとするが、力が入らずその場に手を落とした。 「いいです、そんなの気にしなくていいいんです! ただ、貴方が生きてさえいてくれれば…!」 「…それも、無理そうだなぁ…。」 「っ!なんで!なんでそんなこと言うんですか!! …わたっ、私は!まだ貴方の名前を呼んでいたいのに!!」 必死な想いを正義へと告げるが、正義はもう分かっているような素振りを見せる。 「××、本当に、すまない。」 「なんで謝るんですか!!止めてください!!」 もう何から言えばいいのか女は分からなくなっていた。 ただただこの人とまだ生きていたいだけなのに、迎えにくるには少々早過ぎはしないだろうか?とそんな想いが頭に浮かぶ。 「××、頼みがあるんだ。」 「っ…!聞けません!」 「聞いてくれ。」 「嫌です!!」 「頼む。」 「っ!!」 女は正義の頼むと言う言葉に弱かった。 寡黙な正義が、頼み事をすることが滅多にないからだった。 「私は、このまま逝ってしまうが、この先寂しくても辛くても、…生きてくれ。」 「うっ、あ…!」 「…最後の頼みだ、ちゃんと、迎えにくる、から…、」 「あ、あああああ!!!」 瞬間、機械音が止む。 女は泣き崩れ、正義はそこで息を引き取った。 「酷い…酷いわ…私、そんなこと言われたら生きるしか、ないのよ…っ!!」 とんだ呪いじみた頼みを残してくれたもんだと、女はごちゃごちゃの感情でそう吐き出した。 機械音が鳴り止んだ今、女の泣き声だけが、響いていた。 |