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08



暫く泣いていた私は赤い目を擦りながら男の人にお礼を言って頭を撫でるのをやめてもらった。

「(知らない人の前で泣くなんて…しかも頭まで撫でてもらって…恥ずかしすぎる…。)」

恥ずかしさで今なら死ねそうだ…。
そんなこと考えていると男の人が何か心当たりがあるように話し始めた。

「ナマエちゃんは多分、異世界とかから来たんじゃない?」

「異世界?」

またもや頭に?が浮かぶ。

「そう、異世界。パラレルワールドとも言うんじゃないかな。」

「パラレルワールド…。」

まったく現実味がない。
パラレルワールドなんて物語の中だけの話だ。

「ほとんど資料は残ってないけど過去にもそういう人達が何人かこちらに来たと記録されてたよ。」

「ほ、本当ですか!」

「ああ、そういう人達を異海の人(いかいのひと)と呼んでいる。」

「いかいのひと…?」

「異なる海の人と書いて異海の人。
何の為にこちらに来たのかは分からないけどね。
ナマエちゃんも、あっちの世界で死んで何らかの影響でこっちの世界に来た、とかね。」

次々と仮説を立てていく男の人に私は頭がパンク寸前だ。

「そんな難しい顔しなくても大丈夫だよ。」

そう小さく笑った男の人は安心させるかのように私の頭を撫でた。

「で、でも…」

本当に、大丈夫なのだろうか?
ここには家族も、友達も知り合いでさえいない。
ずっと白い部屋にいた私が、いきなり外の世界に放り込まれて、果たして生きていけるのだろうか?
不安で仕方がない。

「まあ、不安なのは当たり前だけど大丈夫、異海の人は見つけたら大体保護してるからね。」

「そ、そうなんですか?」

「うん、たまに海賊とかになっちゃってる異海の人もいるけどそれ以外は大体海軍が保護してる。
だからそんな不安そうな顔しないでよ、…可愛い顔が台無しだよ?」

「なっ、そ、えっ、か!?」

可愛い!?
ななななな…!?
うわあああ、顔が熱いです!

「かーわいー、おじさんそういう反応に弱いんだよねえ…。」

くすくす笑いながらも私の頭を撫で続ける男の人に、私はどういう反応をしていいか分からず、目と口をぎゅっと閉じることしかできない。

「あららら…そんな反応されちゃあ勘違いしちゃうじゃないの…。」

「…?」

言葉の意味がよくわからなかった私は顔をあげて男の人の顔を見た。

「…ナマエちゃん、他の人の前でそんな顔しちゃだめだからね?」

「は、はい…?」

「さーて、んじゃ仕方ないけど行くか…。」

そう言った彼は椅子から立ち上がると扉へと歩き出した。

「え、あ、あの!」

誰もいないこの部屋に一人にされたくなくて、慌てて彼の服を掴んだ。

「だーいじょうぶ、上にちょっと報告に行ってくるだけだから。
あとナマエちゃんの能力も調べてくるよ。」

彼は先ほどと同じようにくすりと笑うと掴んでいた私の手をやんわりと離し、そのまま彼の手に包まれた。

「だからそんな顔しないで、ね?」

「…はい」

置いて行かれると思ってたのがばれたのか、彼は優しく諭す。

「あ、そうそうそれと俺の名前はクザン。神様なんて、そんな大層なもんじゃないよ。」

「クザン、さん、」

―――クザンさん
神様だと思っていた人は神様ではなくて、少しだけ、マイペースな人。

「うん、今更だけどね…じゃ、ちょっと行ってくるからいい子にしててね。」

掴んでいた私の手をやんわりと離すとぽんぽん、と頭を撫で、そのまま出て行ってしまった。
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