再会 (2/17)



半年くらい前から定期的に、それからジョウトを出る直前にもわたしはアララギ博士に連絡を入れていた。イッシュへ戻って、初心者用のポケモンと一緒にイッシュを旅したいと思ってる、と。博士はわたしのわがままを快く了承してくれた。

だから、帰ってきたらいの一番に研究所へ来てね。絶対よ! とお願いされてここに来た、わけだけど……。

……アララギ研究所では研究者たちが忙しそうに働いていて、わたしだけ場違いな気がしてちょっとだけ気後れした。
だけど大丈夫だ、だってお願いされてるし、わたしも挨拶しなきゃいけないし、イッシュのポケモンをもらいにだって来たんだから!

そう自分に言い聞かせて、覚悟を決める。目の前を通り過ぎようとした女性の研究員に声をかけて、目的の部屋へ案内してもらうことにした。知り合いの研究所といえど、1人で歩き回るのはさすがに気が引けた。何年も会ってなかったわけだし。
通された部屋には、確かにわたしの知っている女性の姿があった。明るいブラウンの髪を結い上げて、動きやすそうな格好をした人。案内に時間を割いてくれた女の人にお礼を言ってから、ドアを閉めると資料に目を通す彼女へ駆け寄った。

「アララギ博士!」

わたしの声に博士が顔を上げる。視線が絡んで、一瞬博士はきょとんとした表情を見せた。けれどすぐにわたしだと気付いて、パッと明るい笑みを浮かべる。

「あら、コハクじゃない! いらっしゃい!」

 **

「懐かしいわね、元気にしてた?」
「はいっ、博士もお元気そうで何よりです」

せっかくだからと買っておいたお土産を渡して、軽く挨拶を交わす。
これまでの図鑑のデータをコピーしてイッシュ図鑑に移してくれると言うので、ウツギ博士から貰った図鑑を渡した。
定期的に連絡を入れていたといえど、やっぱり実際に会うのと会わないのとじゃ、全然違う。アララギ博士は、博士としては駆け出しだけど、博士のお父さんの成果もあって、案外上手くいっているそうだ。

「おかげで研究もはかどってるわ。順調よ! コハクはジョウトどうだった?」
「初めは不安ばかりだったけど、今では楽しいですよ! 本っ当にいいところで、イッシュとは違う良さあって。姉さんのブリーダーの仕事が安定してきてるし、父さんの仕事も順調だし。母さんは最近ポフレやポフィン作りにハマってます」
「そ! それなら何も心配することないわね。ところで、コハクは自分のライブキャスター、まだ持ってないよね?」
「はい」
「それなら、買ったら連絡ちょうだいね……電話番号、渡すから」

わざわざありがとうございます、そう言うと「気にしないの!」と返された。

「はい、ポケモン図鑑と電話番号」

礼を言って、図鑑と博士の電話番号が書かれたメモ用紙を受け取る。
メモは失くさないようにと、今まで使っていた図鑑と一緒にバッグにしまう。それから、新しい図鑑をいじってみて思わず感動する。操作方法がまるで違うから、なんだか新鮮だ。そうしていると、博士が仕切るように声を上げた。

「……さて、コハク!」

博士は気持ちを切り替えるようにシャンと背筋を正して、机上に置かれていた横長の容器を示した。それのなかには、モンスターボールが3つ。言われずとも、どんなポケモンが入っているか想像できる。新しい出会いに、思わず固唾をのむ。

「ここに新人トレーナーに渡すポケモンがいるわ。あなたは正確には新人ではないけれど、初心に帰りたいということで、特別にね」

待ってました、とわたしは歓声を上げる。それにアララギ博士は軽く笑って、容器からボールを取り出すと、ボールから出しながらザッと説明をしてくれた。

水タイプのミジュマル、炎タイプのポカブ、草タイプのツタージャ。3匹とも男の子だそう。
……うーん、どの子も可愛いからどうしても迷う。それに3匹にはそれぞれ良さがあるはずだから、尚更迷った。

しゃがんで、彼らと目線を合わせてみる。
ミジュマルはつぶらな瞳の奥に、勇敢で優しげな色を灯している。血の気が多いのか、お腹のホタチを使ってバトル好きをアピール。
ポカブは活発で甘えん坊な性格らしい。その場で何か考えながら足踏みしていたかと思うと、近くにあった箱からポケモン用のオモチャを引っ張り出してきて、一緒に遊ぼうと誘ってくる。
ツタージャは1番落ち着いているというか、大人しい性格みたいだ。アピールが控えめで、ツタをするすると伸ばしてきて、わたしの腕に絡ませる。

「……よし、ミジュマル! きみに決めた!」

3匹のかわいさに散々迷った挙げ句、結局決めたパートナーはミジュマルだった。抱き上げてそう声をかければ、ぱあっと笑顔を見せるミジュマル。わーい! とばかりに小さな手をバンザイして、全身で喜びを表現……なんてかわいいんだろう!
しゅんとうな垂れたポカブとツタージャに申し訳ない気さえするから、そのかわいさはちょっとズルいと思う。
「ふたりとも、次の出会いに期待しましょ」とアララギ博士はポカブとツタージャに苦笑して、ボールに戻す。「あとでたくさん遊ぶからね!」と添えて。それから、博士はさて、と、わたしに改めて向き直った。

「コハクもトレーナーとしてまた一歩踏み出したわね、おめでと! その子と仲良くしてやってね」
「はい、頑張ります! よろしくね、ミジュマル」

ミジュマルは片腕で抱っこしても平気なくらいの大きさだ。その状態で手を差し出すと、ミジュマルは短く鳴いて、小さな手で握手を交わしてくれた。やっぱりかわいい。短くてきめ細やかな体毛がちょっと気持ちいい。

……自分のポケモンで、最後にこんなに小さなポケモン抱き上げたのいつだったかなあ。見習いブリーダーとしてお手伝いしてたといっても、なんだか不思議な感じがした。新鮮な気分。

「……きっとそろそろ来る頃ね」

この子の名前どうしようかなあ、なんて考えていると、博士は意味ありげな笑みをこぼした。
彼女の言葉にわたしが疑問符をあげた時、かすかに研究所の空気が変わっていたことに気が付いた。なんというか、それまでバタバタとしていたのが、ちょっと和らいだというか。わずかに穏やかな感じになったというか。
なんの話ですかと尋ねてみても、博士は意味深な表情を浮かべるだけ。疑問は解消されない。壁越しの廊下から研究員らしい人の話し声が近付いてきて、何人かこの部屋に向かってきていることを知る。

なんだろうとミジュマルを抱っこしたまま博士の隣へ向かうとほぼ同時に、部屋の扉をノックする音。
博士が返事をすると、開扉とともに飛び込んできたのは、聞き覚えのある、ソプラノののんびりとした声だった。


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