帰郷 (1/17)



その土地に足を踏み入れると、思わず笑みがもれた。

(……懐かしいな)

着いた場所はカノコタウン。
田舎にしては珍しく、少し離れた場所には空港がある。今日わたしが海を渡るのに利用したのもそれだった。
カノコは空港があるというのに建物が少なく不便なところもあるけど、変わりに緑豊かなところ。それにアララギという博士の研究所がある。

――そして。
ここ、カノコタウンはわたしの生まれた場所でもあった。

父の仕事の関係でカノコを、というより、イッシュから離れたのは5年ほど前のこと。
引っ越し先――ジョウトでは、当然知らない人たちに囲まれるようになって、真新しさより不安や寂しさのほうが大きかったのを今でも覚えてる。あっちに着いた直後なんか、ずっと泣いてたから姉を困らせてたっけ。

けれど、年の変わらない男の子が旅をしていると知った時には、思わず家族の了解を得て旅を始めていた。リーグ制覇は叶わなかったけれど、ジムバッジを集めながらの旅は楽しかった。
そういう経験があって、15歳の誕生日を間近に控えた現在、わたしは1人、帰郷したのだった。

目の前に広がる風景は、記憶にあるそれと、全然変わっていない。ぽつぽつと建つ一軒家、のどかな雰囲気、ゆったりとした空気。石畳みやレンガなどが敷き詰められていない道。
5年前と変わったことと言えば、1番道路手前、一際大きな建物。そこで研究に明け暮れる博士が変わったことくらい。初老の男性から、その娘に継がれた、そうだ。ほんの、2、3年くらい前に。
なんだか、くすぐったい気持ちがじんわりとした暖かさと共に胸の内に優しく広がった。

(……ただいま、イッシュ)

これから久しく会っていない友人や博士に会えると思うと、自然と胸は高鳴る。ジョウト、カントーでの経験や、イッシュでは見られないポケモンのこと、聞かれるかも知れないな。
でも、あちらで共に旅した仲間――ジョウトやカントーのポケモンたちには、しばらくは家族やウツギ博士の研究所で待っていてもらうことしたので、すぐに会ってもらうことは叶わない。

本当は一匹くらいは連れてきたいところだったけど、気持ちを改めて旅を始めたかった。だから、彼女たちは残念がるだろうけど今の手持ちはゼロ。
……とはいえ、わたしもずっと一緒にいた子たちと何ヶ月も会えないのは寂しいなあ。少ししたら、あの子――ユウだけでも呼びたいな。

「……さて」

感傷に浸るのもここまで。そろそろ行かないと。深呼吸して肩に掛けたショルダーバッグを掛け直すと、私はアララギ研究所に向かって歩き出した。


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