絆される (14/17)



翌日からベルと別々に行動することになった。流石にこれからもずっといるわけにもいかない。それぞれ、やりたいようにやることになった。

わたしはまず気の赴くままに観光だ。
小さい頃ヒウンシティやライモンシティへ行く時にこの街を通ったはずだけど、昔はどう思ったんだったかな?
今きちんと見てみると、都会的ではないけど特有の空気感があって落ち着く街だ。倉庫が再利用されているだけあって、古き良き街並みといった印象で趣があるように思う。

……さて、シッポウシティのジムリーダーは博物館の館長でもあるアロエさん。
一足先に観光を終えたトウコがライブキャスターで教えてくれた。それから、今日は何匹かポケモンを捕まえた、とも。バッジを8つ集めるまでに面子を調整しながら図鑑を埋めていくつもりよ、そうトウコは話していた。
ボックスをあまり使わないわたしは、どうしても少数のメンバーに重点を置いてしまいがちだ。それで図鑑も穴あきになりがちだから、意欲的な印象を受けるトウコを素直に凄いと思う。

あちこち見て回って、この街には以前ヒウンシティのジムリーダーであるアーティさんが暮らしていたと知る。アーティストとしても有名なその人。
シッポウは芸術の街とも言われているから、そのこともあるんだろうな。いつか、わたしやわたしの身の回りのものを描いてもらおうかな?

カフェ・ソーコで一休みをしたあと、博物館を見学することにした。
カフェで昼食を摂ってから歩きたがっていたシグレを引き連れて博物館へ向かう。
博物館は圧巻の一言に尽きる外観で、きっと内装も豪勢なんだろうと思う。

「中に入ろうか」
『わふ!』

ジムリーダーのアロエさんを知るためにも入って見なければ。そう思ってシグレに声をかけて中に入ろうとした、瞬間。
博物館の扉が開いて、1人の人物が姿を現した。

「……あっ。Nさん!」

人は見かけによらないとはよく言ったもので。中から出てきたのは先日初めてあった、長い緑色の髪を1つにまとめた、背の高い男性だった。不思議な空気感のある人。
彼はわたしに気が付くと呟くように「キミか」とこぼす。まず足元に佇むシグレを、それからわたしが抱くタマゴを認めると、

「ゾロアを育てる気かい。どこでそれを手に入れた?」
「育て屋さんで。野生のゾロアークが敷地に置いて行ったそうです」
「本当だろうね?」
「嘘を吐く理由がありません。……あなたは見学に博物館へいらしたんですか」
「……ああ、まあ。見てみたいものがあったからね」
「わたしも同じような理由で見学するところでした」

言うと、視線を逸らされる。
……うん、まあ、そんな気はする。彼の言葉を借りるならわたしはポケモンを縛る存在だ。相容れないだろう。

「……そう、ボクはダレにもみえないものがみたいんだ」
「?」

ふいに言われた言葉に疑問符が浮かぶ。誰にも見えないもの――それでパッと思い浮かんだもの。

「未来のことですか?」
「そう。ボールの中のポケモンたちの理想、トレーナーという在り方の真実。そしてポケモンが完全となった未来……キミも見たいだろう?」
「それは――人とポケモンが一緒にいては不完全ということですか?」
「キミなら分かるだろう。『一人前のブリーダー』を目指すキミなら」
「な、んでそれを……ああ、この子たちか」

彼の口から出てきた言葉にドキリとするも、先日彼が話した「ポケモンの声を聞ける」という力を思い出して、わたしが持つモンスターボールに視線を落とす。ハッタリなんかじゃない、彼の確かで不思議な能力。彼にはきっと、ポケモンの隠し事はできない。

「イエスかノーで答えるならイエスです。でもそれは、今まで通り人とポケモンが一緒にいた上での話です」
「そうかい。ではボクとボクのトモダチで未来を視ることができるか、キミで確かめさせてもらうよ」

 **

「コハクっ!」
「トウコ。見てたの」
「うん……」

Nさんとのバトルが終わるなりトウコが駆け寄ってきた。心配そうにする彼女に「この通りわたしもポケモンも無事だよ」と言う。
かたわらでNさんが「ありがとう、オタマロ。キミたちの力を引き出せずごめんよ」とボールに戻していた。

バトルはわたしの勝ちで終わった。でも僅差だ。最後にアオイが踏ん張ってくれなかったら確実に負けていた。
Nさんの手持ちは前回と変わっていた。――つまり、初めて会った時に話したように、ポケモンをボールで縛ることを嫌って総とっかえしたということ。これからきっと、オタマロたちを逃してしまうのだろう。
ポケモンたちの言葉が理解できなくても、1つ確かに分かることがある。それでむずむずとした感覚に支配されて、思わず口出しをしてしまった。余計なお世話だと思うけど。

「あなたなら、あなたのために頑張ったオタマロたちが今一番どうしたいかが分かるはずです」

Nさんはこちらを見て、手の中のボールを見て、トウコを見たあと、またわたしを見る。そして言った。「今のボクに認める勇気が出ない言葉だ。ボクを惑わす……」と。それで、やはりポケモンたちの言葉が悲観的な意味ではないと察する。

「それでも、プラズマ団のようにポケモンは支配されていると言うんですか」
「……トウコにも聞こうか。ボールの中のポケモンたちの理想、トレーナーという在り方の真実、ポケモンが完全となった未来。キミも見たいだろう」

トウコに視線が向く。
敵対すると分かっていても確認はしたい、賛同してくれるならいいんだけどね。Nさんの瞳がそう語っていた。

「嫌よ、見たくない。それって人間とポケモンが切り離されるってことでしょ。あたしはお断りよ」

トウコは少し考えてそう言うと、Nさんはあからさまに残念そうにした。

「ふうん、期待はずれだな」
「は? なにそれ?」

Nさんの不満げな物言いにこちらもムッとする。トウコが言い返したけど、Nさんは聞こえぬふり。
それからNさんは急に暗い目をした。「未来はまだ視えない……世界は不確定……」と、苛立たしげに溢す。変わらず早口に。

「え、なに?」
「今のボクのトモダチとでは、すべてのポケモンを救いだせない……世界を変えるための数式は解けない……ボクには力が必要だ……だれもが納得する力……」

わたしたちでなく、自分の無力さを恨むような声音。悔しそうに歯ぎしりをするNさん。ポケモンと人の別離を心から望むような。

「……必要な力はわかっている……英雄とともにこのイッシュ地方を建国した、伝説のポケモン・レシラム! ボクは英雄になり、キミとトモダチになる!」

高らかに宣言する様はまるで演説。両手を広げ目標を再確認するかのように語る姿に一瞬ゲーチスがよぎる。ゲーチスと違うのは、彼のように大衆に呼びかけるのではなく自分自身に言い聞かせる話し方だ。

「れ、レシラムと英雄って、ゼクロムと一緒に神話に登場する?」
「……ボクは先に進ませてもらうよ。理想論だけでは何も叶わないからね」
なんだか一方的に締めくくられてしまって、わたしもトウコも「はあ」という気の抜けた言葉しか出てこなかった。

「――ああ、それと。今はこの先のヤグルマの森にプラズマ団がいるから、気をつけて」
「はあ……、え!?」

そんな爆弾を投下して、Nさんはヤグルマの森がある方へと立ち去っていった。自分で今プラズマ団がいるって話したばかりなのに、大丈夫なの? 思考が似ているから見逃してもらえるのかな。

……Nさんの姿が見えなくなったら、なんだかどっと疲れが押し寄せてきた。

「……わたし、一回ポケセンで休憩してくる……」
「あたしは予定通り博物館見たらジム戦しようかしらね」

お互い苦笑する。
姉さんの言った、わたしは巻き込まれがちだという評論が身にしみる。でもきっと今さら無関係な立場であろうとするのも難しい。
トウコとはその場で別れて、わたしはポケモンセンターへと戻るのだった。

……イッシュに帰って来る前に巻き込まれたのはいつだったっけ? アローラに数日観光に行った時は何事もなかったから……3年くらい前に、カロスで観光中に色違いのニャスパーを巡った喧嘩に巻き込まれたのが前回か。

ポケモンセンターでアオイやシグレの回復をしてもらったあと、2匹とミックスオレを飲みながら思い返す。

大声で怒鳴り合い取っ組み合いまでに発展した2人のトレーナーを怖がったニャスパーが通りがかりのわたしにしがみ付いたことで、2人のトレーナーの矛先がわたしに向き、最終的に野次馬になっていた人らやポケモンたちに止められたのを覚えている。
ニャスパーがわたしに救いを求めてきた時にわたしは2人を仲裁したつもりだったけど、彼らは聞く耳を持ってれなかったのだから、なるべくしてなった、という気持ちもある。
あれがきっかけでニャスパーが仲間になったけど、ニャオニクスになった今でもトラウマらしい。大きな音やバトルがすごく苦手だ。それでも人といる選択をしてくれたのだから、それで充分なのだけれど。
……あの子、姉さんのところで元気にしてるかな。休憩が終わったら聞いてみよう。


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