いざバトルを! (12/17)



「ヨーテリー、まずは『ふるいたてる』!」
「こっちは『シェルブレード』!」

バトルが始まって、デントがすかさず変化技を指示する。「ふるいたてる」は攻撃と特攻をあげる技。積まれると厄介だ、そう思ってこちらは攻撃技を選択する。
素早くホタチに剣状の水をまとわせて、アオイはバトルフィールドを蹴り上げる。「ふるいたてる」をしたばかりのヨーテリーにアオイの技がクリーンヒットした。

「『たいあたり』!」
「避けて、『とっしん』!」

ヨーテリーがよろめいた一瞬を見逃さない。続けざまに指示するも、ヨーテリーはアオイが攻撃を繰り出すより先に体勢を立て直す。そしてスレスレのところでアオイの「たいあたり」を避けると、デントの指示の通り「とっしん」を繰り出す。アオイの体が吹き飛ばされて床を転げ回るのを見て、わたしは思わず声を上げる。「アオイ!」
「とっしん」はヨーテリーのタイプと一致した技だから強力なはずだ。とはいえ、あちらも反動があったようで、痛みを振り払うかのように高らかに吠えた。
やっぱり接近戦が得意なヨーテリーにむやみに近付くのは賢明じゃないか……?

「アオイ、まだいける!?」

思わず聞くと、彼は立ち上がってみせる。そして負けていられないとばかりにアオイも咆哮するものだから、思わず笑いが漏れる。

「……だよね!」

アオイは見た目にまだ体力は残ってるみたいだけど、「ふるいたてる」をしてから更に強力な技だ。余裕というわけにはいかないだろう。

「よし、次は『みずでっぽう』っ!」
「避けて、もう一度『ふるいたてる』!」
「うわ……っ、強気だねえ!」
「ジムリーダーとしての矜持がありますからね」

デントとしては、この勢いでアオイ倒せば、次のポケモン相手にも有利に戦える。それを考えてのことだろうと思う。
……負けるもんか! 伊達にトレーナーやってないんだから!

「コハク、ぼくが勝たせてもらうよ。ヨーテリー、『たいあたり』っ」
「わたしだって! ――引き付けて、アオイ!」

あっ、とデントが息を呑むのが聞こえた。それでデントが一瞬迷う素振りを見せる。けれどすぐに覚悟を決めたかのような表情を浮かべた。

「ヨーテリー、『とっしん』に切り替えて!」

言われて、一旦ヨーテリーはぐっと踏み込むと、先ほどよりも勢いを増してこちらに突撃してきた。
それでもアオイもわたしもヨーテリーから目を逸らさない。ギリギリのタイミングを見計らって、

「『シェルブレード』!」
「ああっ!」

「とっしん」の勢いを利用をした「シェルブレード」は急所に入ったらしい。
目を回しているのを確認して、ポッドが「ヨーテリー、戦闘不能!」と声をあげる。
やった! アオイえらい! と思わずガッツポーズをとるわたしと、跳ねて喜ぶアオイ。
観客のほうからデントのヨーテリーの敗北を残念がる声、と、ベルの「やったあ!」という歓声。

一方でデントはヨーテリーをボールに戻しながら「コハク、君も強いね……」と感嘆とした様子で言った。それにわたしは「デントこそ! すごい楽しいよ!」と笑う。
ポッドの「気合い入ってるなー」という呟きに「あなたが言うんじゃありません、すぐに熱くなるんですから」なんてコーンが返すものだから、それにちょっとわたしもデントも苦笑した。

「さて、ぼくの切り札はこの子だよ。ヤナップ、おいで」
「アオイ、そのままお願いね」
『み、ジュマ!』

任せとけ! とばかりに胸を張るアオイ。相性が不利だけど何のその、と気合い充分だ。

「アオイ、『みずでっぼう』っ」
「距離をとって『つるのムチ』!」

たん、たん、たん、とバックステップで離れつつヤナップは一対のツルを伸ばす。かと思うと、素早くムチとして叩いてアオイの動きを止めた。

ヤナップは短距離も遠距離も得意なポケモンだ。
短距離型のヨーテリーではリーチの差がある。かといって、懐に入り込むには上手くタイミングを見ないと難しいし。
だから同じように距離関係なく技を使えるアオイを選出したけど、不利は不利だ。追い込まれる前にアオイを活躍させてやりたい。上手くこちらのペースに持ち込めたらいいんだけど……。

体力がかなり減ってしまっているアオイ、そしてツルが伸びる元。あっ、と思う。思わずすぐ声を上げた。

「アオイ! そのまま真っ直ぐ『みずでっぽう』!」

ヤナップの攻撃の嵐にやや怯みながらもアオイは指示通りに攻撃を与えた。真正面から攻撃を受けてヤナップもたじろぐ。うん、やっぱり「げきりゅう」が発動して威力が上がってる!

「もう一度『みずでっぽう』、そのまま突っ込んで!」

また真正面から飛んできた攻撃にヤナップが横へ避けるも、すぐ目の前には急接近したアオイ。

「『シェルブレード』!」
「『タネマシンガン』だ!」

顎に「シェルブレード」があたりヤナップは一瞬をバランスを崩すも、すぐ体勢を立て直して攻撃に移る。耐えきれずにアオイはうずくまってしまう。

「アオイ!」

呼びかけるもアオイは立ち上がらない。彼は目を回していた。これではもう戦いを続けられないだろう、ポッドも「戦闘不能」の審判をくだす。観客のほうから歓声が上がった。
アオイをボールに戻して、やり切った彼に声をかける。

「残念、わたしの力不足だ。ありがとうアオイ」
「相性は返せませんでしたね」
「良いところまで行けたと思うんだけどねえ」

シグレのボールを手の中で転がす。
あとは頼むよ、ヤナップの体力は削れてる。そう伝えると、応えるようにシグレ自らが大きくボールを揺らした。

「いって、シグレ!」

ボールから飛び出したヨーテリーのシグレ。しゃんと顔を上げてヤナップを見つめる。

「『かたきうち』!」
「『つるのムチ』で捕まえて!」

デントの指示にヤナップはツルを伸ばすも、シグレが不意にぐんと大きく踏み込む。速度を上げてヤナップと距離を詰めと「かたきうち」を成功させた。

「やった! 良いよ、シグレ!」

思わず上げた歓声に、シグレも「だろう!」とばかりに鳴く。
タイプが合うだけでなく、直前に味方が倒されていると威力が上がる技。今のは相当効いたみたいだ、ヤナップも弱々しく立ち上がる。

「今度は近付かせないよ、ヤナップ! 『タネマシンガン』っ」
「よく見て避けてっ」

反射的にそう指示するも、シグレの足元に集中した攻撃にシグレは足をもつれさせて転んでしまう。

「シグレ、しっかり!」

ようやくタネマシンガンが止んでから、シグレはぷるぷると首を振りながら立ち上がる。その瞬間デントが指示を出す。

「『いわなだれ』!」
「シグレ!  『かみつく』っ!!」
「今度は『つるのムチ』だっ」

「いわなだれ」が当たる前にヤナップに近付かせようとするけど、今度は「つるのムチ」に捕まってしまった。
デントの言う通り、簡単には近付かせてくれないらしい。
振り飛ばされそうになりながらも、もがくシグレに指示を飛ばす。

「シグレ、そのまま! 『かみつく』!」

シグレは一瞬言葉の意味を取り損ねるも、自分を捕らえるムチに目を付ける。指示の意図に気付いたらしい。そのムチにガブリと噛み付いた。
それにヤナップが悲鳴を上げて思わずシグレを解放する。シグレは上手く受け身を取って、ヤナップはむうっと口を尖らす。わたしとシグレを睨んで、デントを振り返ったヤナップに苦笑した。

「ひ、卑怯なテ使ったみたいでごめん……」
「はは……ぼくらも経験値をもっと積まないとね」

シグレもヤナップももう体力が残り少ない、あと一撃、がんばっても2発が限界だろう。

「――よし! 次で決めるよ、シグレ!」
「ヤナップもね。きみならやれるよね」

呼びかけに2匹とも大きく頷く。深呼吸して、姿勢を正して。いつでもいけると鳴く。

「『かみつく』!」
「『いわなだれ』だ!!

行く手を塞ぐような雪崩にシグレはややうろたえながらも、わずかな隙間を縫って接近。そうして目の前に落ちてきた岩にかすりながらも、シグレはヤナップに飛びかかった。


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