サンヨウジムへ! (11/17)



腹が減っては戦ができぬ。

お昼ご飯がまだだったわたしたちは、サンヨウジムに併設されているレストランで食事を摂ることになった。レストランとは言ってもカジュアルな店構えで、値段も取っつきやすい設定となっているみたいだ。

建物に入ると案内のウェイトレスさんに「ジムですか、お食事ですか」と質問されて、「両方です」「先に食事でお願いします」と答えたのが新鮮で、なんだか面白く感じる。ウェイトレスさんは慣れているのか、そのままテーブル席に案内をしてくれた。
建物の奥には仕切り用らしい大きなカーテンが下されていて、その先が昨日確認したバトルフィールドなのだろうと推測する。

ランチメニューはいくつか種類があり、どれも美味しそうなものばかりで目移りしてしまった。木の実とミツハニーの蜜を使ったふわふわのパンケーキや粗挽きヴルストのマッシュポテト添え、フキヨセシティから取り寄せた野菜とクルミのサラダに、ラッキーのタマゴを使ったサンドイッチなどなど……ソフトドリンクも含めて豊富で、見てるだけで楽しいくらい。
迷いに迷ってわたしが頼んだのはバジルとモーモーチーズのパスタとミルクティー、ベルはパンケーキとカフェラテ。タマゴのサンドイッチは2人でシェアすることに。
ポケモンたちにも専用のメニューを注文した。

昼時ということもあって運ばれてくるまでに少し時間がかかったけど、そんなことも気にならないくらいワクワクが止まらなかった。
もちろん食事が楽しみだったのもある。でも、デントたち3人に久しぶりに会えてバトルもできるんだ。それで落ち着いていろというのも難しい話はじゃないか。
……とはいっても、ベルもジム戦が楽しみらしく、食事中もソワソワしていた。ご飯美味しいね、なんてわたしやポケモンたちと言葉を交わしつつも、意識はジムのほうに向いていたのがはっきり感じ取れるくらい。わたしが先に挑みたいなんて言い出せない雰囲気だった。
食事が終わって一息つくと、ベルが切り出した。

「あ、あの、コハク。ジム戦はどっちが先にやろっか? あたし、あとからでも全然平気だよ!」
「ううん、ベルがお先にどうぞ。楽しみなんでしょ?」
「えへへ……そんな分かりやすかったかなあ? あたし、こんなにたくさんの『初めて』があるのがワクワクで仕方ないの。コハク、ありがとね!」

お会計をしてジムの旨を伝えると、レジにいたウェイトレスさんがインカムを利用する。
すでにジムリーダーには伝えられていたらしく、手際よく準備が進められた。テキパキと空いた食器を片付け、残っているお客さんにはジム戦が始まることを告げ。少し時間を置いて照明が落ちたかと思うと、ステージの明かりが灯る。
「挑戦者はステージ前へ!」というアナウンスに従いステージの前にベルと並ぶと、見計らったようにカーテンが開かれる。サンヨウのジムリーダーである3つ子のデント、コーン、ポッドが姿を現すと、席からはファンらしいお客さんたちの歓声が上がる。

「わ! すごい……人気なの?」
「みたいだねえ。びっくりだね!」

「ようこそ、こちらサンヨウシティ・ポケモンジムです」
「オレはほのおタイプのポケモンで暴れるポッド!」
「みずタイプを使いこなすコーンです。以後お見知りおきを」
「そしてぼくはですね、くさタイプのポケモンが好きなデントと申します」

縦一列に並んだ3人はくるくると回りながら口上、横一列に整列し直す。それぞれが決めポーズをすると客席のほうからまた歓声。
一瞬3人の視線がわたしに向いて「おや?」という表情を浮かべた。知ってる人がいる、と思ったであろうそれ。しかしそこはプロというべきか、すぐにジムリーダーの顔に戻る。

「チャレンジャーのおふたりですね。歓迎しますよ。どちらから挑戦いたしますか?」

デントが確認すると、ベルが恐る恐る手をあげる。
これは……緊張するやつだ。ファンたちに見守られながらバトルするというのは。ジョウトやカントーでも似たようなスタイルだったけど、こういうのはいまだに少し緊張してしまう。

……はじめてのジム戦がこのスタイルで、ベル大丈夫かな?
横を見ると、案の定ベルはすくみあがっていた。

「ベル、大丈夫だよ、今まで通りにやれば」
「で、でも、コハク、お客さんに見られてるんだと思うと緊張しちゃうよう……」

わたしが始めてジムに挑戦した時はどうしてたっけ? 5年前だ。とても緊張したのは覚えてる。無我夢中でバトルをしたことも、途中からは緊張を忘れていたことも。1度負けてしまったことも覚えてる。

「わたしは……初めての時もそれからも、いつもポケモンのことだけ考えてたかも。自分の言葉に応えてくれる子たちのこと。大丈夫だよ、ここまでも一緒にやれてこれたでしょ!」
「う、うん……っ、行ってくるね……!」

行っておいで、と背中を押すと、ベルは2歩、3歩とよろめく。それから深呼吸をして、バトルフィールドへあがって行った。

「ようこそチャレンジャー! 名前と最初のポケモンは?」
「ベルです、カノコタウンから来ました。最初の子はポカブです。よろしくお願いします……っ!」
「炎タイプのポカブですね! ではこのコーンがお相手しましょう」

審判役を買って出たポッドによって幕が切って落とされた。ルールは2on2、チャレンジャーのみ入れ替え自由。
初手はベルはポカブ、コーンはヨーテリー。お互いやる気充分だ。ポッドの「では、始め!」という掛け声のあとすぐにコーンが、少し遅れてベルが指示を出す。
わたしはそれを観戦しながら、壁際に置かれていた椅子に腰を下ろした。

ベルは初めてのジム戦、しかも観客付きという状況の緊張や空気感のせいかタジタジになっている。
時々ベルは指示のミスをしてしまい、その影響でヨーテリーによってポカブが倒されてしまった。あからさまにショックを受けた表情のベルと視線が絡む。盛り返そう! という応援もこめてベルを見返しながらガッツポーズをとると、ベルは口を引き締め頷いた。

それからベルはヤナップで体力が残りわずかだったヨーテリーを打ち倒し、僅差のところでコーンの切り札であるヒヤップも撃破したのだった。
ジムバッジとわざマシンを受け取りコーンたちにお礼を言ったあと、ファンたちの、推しが破れてしまったことへの残念そうな息を引き連れてベルが駆け寄ってくる。

「やったあ!! コハク、あたしやったよお!」
「おめでとう、それにお疲れさま! 見ててすっごく楽しかったよー!」
「ポカちゃんたちが頑張ってくれたおかげだね。コハクもありがとう!」
「ふふん、先輩だからね」

ふにゃりと笑う幼馴染みにわたしも笑う。
次はコハクの番だね! と言うベルに頷いて、デントの案内に従ってバトルフィールドにあがる。

「……やっぱりキミはコハクですよね?」
「久しぶり、デント、コーンにポッド」

目を丸くしたデントに頷く。なんだか照れ臭くて変な笑顔になった。

「知ってる顔がいるなと思ったんだよな」
「離れていたのは確か5年ほどかな? 懐かしいな……まさかこうしてバトルできるとは」
「そう! 今はぼくらはジムリーダーで、キミはチャレンジャー。さっそくバトルをしましょう! パートナーのタイプは何?」
「ミジュマルだよ。引き取ったばっかり」
「おや、水タイプの……ではデントが相手ですね」
「なんだよー? ジョウトとかのポケモンはいないのかよ?」

少し不満そうにしたポッドに頷く。
ジョウトやカントーのポケモンを見たいのはポッドたちも同じらしかった。

「今はちょっとお休みしてもらってるよ。だからイッシュでは1からの再スタートなの」
「ちぇ、見たかったのによー」
「ワガママ言うんじゃありません。さ、デント、コハク。バトルフィールドへ」
「審判は引き続きオレがやらせてもらうな!」
「はい! よろしくお願いします!」
「うん、よろしくお願いします」

ほわ……とした笑顔をこぼすデントにつられて、わたしも笑みを引く。
ポッドがわたしとデントがフィールドの定位置へ立ったのを確認して、声をあげる。

「ではジムリーダー・デントとチャレンジャー・コハクのバトルを始めます。ルールは先程と同様の2on2、チャレンジャーのみ入れ替えが可能です」

始め!
その言葉と同時にデントもわたしもボールを投げた。
こちらはアオイ、向こうはヨーテリー。互いにやる気充分!

「では! いくよデント!」
「はい、存分に実力を見せてください!」


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