タッグバトル (9/17)



「コロモリ、ツタージャに『かぜおこし』!」
「ミネズミはミジュマルに『かみつく』!」

プラズマ団員の指示に、彼らの手持ちが攻撃を繰り出す。それにすかさずこちらも指示を飛ばした。

「ミジュマル、『かぜおこし』に向かって『みずでっぽう』! そのままコロモリもっ」
「ツタージャはミネズミを捕まえろ!」

ツタージャを狙った攻撃を、ミジュマルが上手く狙って相殺する。最後にコロモリに向かって一撃を打ち込んだ。それでバランスを崩すコロモリ。

一方で、ミジュマルに飛びかかろうとしていたミネズミの体が、ツタージャのつるによって捕らえられていた。それを確認したチェレンが「そのまま投げ飛ばせ!」と次の攻撃に移らせる。その指示にツタージャはぶん、とつるを大きく振りかぶる。
放り出されるミネズミ。狙う先はコロモリで、一拍遅れてコロモリは避けようとして上手く避けられず、ミネズミの体が直撃してそのまま2匹は地面に叩きつけられた。

「怯むな、立てっ」
「コロモリも! 反撃するぞ!」

プラズマ団の掛け声に、負けていられないとばかりに立ち上がったミネズミとコロモリ。ミジュマルとツタージャも気合いを入れ直す様子を見せる。
プラズマ団もお互いに目配せするのが見えた。

「ミネズミ、ツタージャへ『たいあたり』よっ」
「ツタージャ!」
「ミネズミに『みずでっぽう』!」
「逃がすな、『エアカッター』!」

わたしが指示を出したのと、チェレンが呼びかけたのはほぼ同時だった。
反射的にツタージャは真横へ避ける。ミネズミの攻撃は外れ、代わりにミジュマルの攻撃がミネズミを直撃した。しかし、ツタージャの動きを予測して飛んできた「エアカッター」が、ツタージャに命中してしまう。緑が空中で弧を描いた。

「――っ」

チェレンが言葉を詰まらせる。
一度倒れたツタージャは、主の心配をよそによろめきながらも立ち上がってみせた。それを確認して、わたしもチェレンも安心する。

「――今よっ、ミジュマルに『たいあたり』!」
「っあ、」

――しまった!
気を取られている間、指示を忘れてしまった。
わたしも指示を飛ばす前に、ミジュマルの体が突き飛ばされた。体勢を崩し、地面を滑っていく。ミジュマルは踏ん張ってみせたが、急所に入ったらしい。少しふらついていた。
けれど、プラズマ団のポケモンたちも目に見えて疲れていた。どう転んだって、長期戦なんて……。

(タマゴとモンメンへのストレスもある……、早く終わらせないと)

「踏ん張りなさいっ、もう少しよ!」
「あとがないんだからな!」

相手2人の叱咤に、ミネズミとコロモリは深呼吸する息遣いが聞こえた。荒かった息遣いが、少し整う。

「よし、次の一撃で決めるよ、ミジュマル! ツタージャ!!」

わたしが精一杯振り絞った声に、ビシッとミジュマルとツタージャが背筋を伸ばした。

「『シェルブレード』!!」
「頼むよ! 『リーフブレード』!」
「全力を出しきりなさい! 『かみくだく』!」
「いけ、『サイコショック』!」

 **

「よく頑張ったわ……戻りなさい」

バトルはわたしたちの勝利で終わった。不服そうな面持ちでポケモンたちをボールに戻すプラズマ団員。

「――さ、返してもらうよ」

改めて袋を抱え直した男のしたっぱに歩みよる。
プラズマ団の2人は苦渋の面で、袋とわたしたちを交互に見やった。それから、

「……分かった。ポケモンは返す……」
「お、長引かないで良かった」

ためらい、ためらい、そうしてやっと差し出された袋を受け取る。布地の袋ごしに、確かにタマゴのケースとポケモンの体温。布を介していても、モンメンが震えているのが分かった。怖かったんだ……。

「おいで、モンメン」

袋からモンメンを出して、体をチェックする。痛いところはないみたいだ。モンメンの抱っこはチェレンにお願いする。続いて孵化用ケース。回転させて確認してみたけれど、タマゴにはヒビどころか傷1つなかった。ようやく安堵の息がこぼれる。

「おかえり、ゾロア」
「――1つ、聞かせてもらうけど」

女のしたっぱが重い口を開く。視線はわたしたちに向いていた。

「あんたたちは、人間といるポケモンが可哀想だと感じたことはないの?」

彼女の言葉に、今までのことを思い返す。すぐに思い浮かんだのは、ジョウトで出会った黒ずくめのあの連中のことだった。それから、彼らをひどく嫌う赤毛の少年のこと。

「……それってさ。僕らにあるって言ってほしいの?」
「質問に質問で返さないでちょうだい。どうなの」
「ないよ。愚問だね。ポケモンの能力を引き出すトレーナーがいる、トレーナーを信じてそれに応えるポケモンがいる。これでどうしてポケモンが可哀想なのか分からないね」

わたしが答えるより先にチェレンがきっぱりと言い放って、わたしは口をつぐむ。ある、と言いかけたその言葉を飲み込んだ。言ってしまったら恐ろしいことになりそうな気がした。
女性の団員は「あっそ」と吐き捨てる。「到底分かり合えないでしょうね」

「あなたたちは賛成しないだろうけど、わたしたちは共存のためにやれることをしたいの。確かにエゴかも知れない。それでも、だからこそ……ポケモンにも人間にも、幸せでいてほしい」

思わずそうこぼす。けれどプラズマ団は何も答えない。納得できないような表情を浮かべていた。
白だ黒だと簡単に一括りにはできないことも多いし、大抵のことは一概に完全な善悪で判断できないはず。ポケモンと人の共存だって、そうだ。

「さて……キミたちには一緒に来てもらわないと」

ともあれ、今はこれで話は終わり。
そしたらやることはあと2つ。モンメンを女の子に返すのと、プラズマ団を警察に突き出すのと。
チェレンが男のしたっぱに手を伸ばした――瞬間。その手が乱暴に弾かれた。かと思うと、突き飛ばされるチェレン。尻餅をついた彼を支える。

「チェレン! 大丈夫?」

かなり痛そうだったけれど、聞かずにはいられなかった。チェレンは「だいじょぶ……」と返すけれど、その声は苦悶に満ちていた。それでもすぐに立ち上がろうとしたチェレンの腕を引く。
そうしていたわたしたちをよそに、

「ここは逃げさせてもらうぜ!」
「いつか自分たちの愚かさに気付くことね!」
「あ――ちょっと!」

プラズマ団の2人組はそう言い残して、自身のモンスターボールだけを持ち脱兎のごとく走り去ってしまったのである。
呆然とそれを見送ってしまったチェレンとわたし。開いた口がふさがらないとはこのことだ。

「モンメン、大丈夫だったか? きつく抱きしめちゃったかも……」

チェレンが胸に抱いていたモンメンを見下ろす。モンメンは問題なし! とばかりに葉っぱを力強く動かした。
……と、安堵した瞬間に外から悲鳴が聞こえてきて、わたしたちは慌てて外に飛び出す。そこには複数の男性の警察とジュンサーさんの姿が。今さっき逃げたと思ったプラズマ団は、彼らによって拘束されていた。

「な、なんで? 待ち伏せしてたってこと? チェレン、呼んでたの?」
「いいや……僕は知らないよ。多分ベルだと思う……」

呆気に取られていると、人混みの向こうから、ベルとさっきの女の子が出した。
女の子に気付くなり、モンメンがチェレンの腕からすり抜けるように飛び出していった。彼女もそれを抱きとめる。

「モンメン! 無事でよかったー!」
「間に合って良かったあ! 2人も無事だったんだね……!」
「あのね、おねーちゃんがケーサツ呼んでくれたんだよ! ライブキャスターでお話して、そしたらケーサツの人が来たの! あ、それからみんな、ありがとう!! お礼言うの、おそくなっちゃった!」

興奮気味に矢継ぎ早に話す女の子。膝をついて、目線を合わせる。

「どういたしまして! あなたの力になれて良かった!」
「コハク、チェレン。本当にありがとうね! 取り返してくれて。ほんと2人と友だちでよかった!!」
「ベルこそありがとう。おかげで逃さずに済んだよ」

そう言ったチェレンの声は少し上ずっていた。ベルもぎこちなく笑う。こんなの、滅多にない経験だ。いつも通り平常心で、なんていうほうが無茶だ。

「ちょっと、いい? 今回のことで話を聞かせてほしいの。参考人として署まで来てもらえないかしら」

不意にジュンサーさんに声をかけられて、立ち上がる。断る理由もないのでわたしたちは頷いた。するとジュンサーさんは「助かるわ」と眉尻を下げた。そして、女の子のご両親もまもなく署に到着するはず、と説明してくれる。

「では、パトカーに乗ってちょうだい! ご協力、感謝します」

ジュンサーさんの指示に従って、道路脇に駐められていたパトカーに乗り込む。誇らしい気持ちと、居心地の悪さが両立する空間だったことなど言うまでもなく……。

署ではジュンサーさんや女の子のご両親に感謝の言葉を述べられたあと、わたしたちは絞られてしまった。
こういう時は子どもだけで解決する前に大人の助けを待つようにしなさい、と。女子供というだけで危害を加える人もいる、何かあった時大変だから。そう叱られてしまった。

「今回は結果オーライだったけど。次からは気をつけなさい。じゃなきゃ、強制的に旅を終わらせてもらうからね」

そうジョーイさんに締めくくられて、わたしたちは署をあとにするのだった。


- 9 -

|


[Back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -