行こう! (8/17)



地下水脈の穴へプラズマ団が逃げ込むのが分かって、追いかけながら幼馴染に電話をかける。けれど応答がなくて、不安で押しつぶされそうな気分になった。
あの2人組を追い詰めればきっとバトルになるだろう。けれど、相手の手持ちの合計数が分からない。わたし1人で……バトル経験の少ないポケモンが2体の状態で、絶対に勝てると言い切れる根拠がなかった。それに、ミジュマルやヨーテリーに余計な負担をかけたくない。
でも迷っているうちに洞穴の奥まで逃げ込まれては困る。どうすれば? そんな焦燥感に苛まれながら、地下水脈の穴にたどり着いた時――

「コハク!!」

背後からチェレンの声が聞こえて、どっと安心感が押し寄せてきた。

「チェレン。よ、良かった、ここで会えて……!」
「僕ら、プラズマ団を追いかけてきたんだ。見なかった? ……って、聞かなくても、見たみたいだね」

チェレンは息が上がっていた。額や頬にも汗も滲んでいる。少し遅れて、ベルと小さな女の子が追いつく。
2人が電話に出られなかったのも、そのせいだと直感的に理解する。きっとチェレンたちは、プラズマ団を追いかけていたからわたしからの着信に気が付かなかったんだ。

「この中に2人、逃げ込んだよ。……わたし、タマゴを盗られちゃった。だから一緒に戦ってほしいの」
「僕らも似たような理由で追いかけてたんだ」
「この子のモンメンもプラズマ団に盗られちゃったの」

2人の説明に、ベルの隣にいる女の子へ視線を向ける。しゃっくりをあげ、ボロボロと涙をこぼす少女。まだ5、6歳くらい。ベルまで泣きそうな表情で、その子の背中をさすっていた。

「あたし、いっしょにいたのに……連れていかれちゃった……」

泣きじゃくる女の子に胸が痛くなる。……こうまでして、「解放」を行うのが彼らのやり方? ポケモンを「救う」ためなら人をどれだけ傷付けてもいいってこと? そんなのおかしい。
女の子の視線に合わせ、わたしは語りかける。

「あなたはなんにも悪くないよ。大丈夫、自分を責めないで。モンメンも絶対取り返すから、もう泣かないで、ね?」

女の子の姿に、ひどく泣き虫だった過去の自分が重なる。だからできるだけ落ち着いた声を出した。
それは昔の自分が聞いて安心した声音だ。不安でどうしようもなくなってしまった時、身近な人にかけられた優しい声。それで気持ちが落ち着いたのを思い出す。
それをわたしも同じようにできたのだとしたら、自分でも成長できてるんだと、ほっとする。

「ほんとに? ほんとにほんとに、助けてくれる? お願い、パパとママにもらった大事な子なの!」
「うん、約束する」

女の子の念押しに頷くと、ほんの少しだけ彼女の表情がやわらぐ。ベルも「うん!」と明るい声を出した。

「大丈夫! お姉ちゃんのお友だちはとっても強いんだから。絶対に助けてくれるよ!」

ベルが女の子の手をぎゅっと握る。
洞穴の中の様子を伺っていたチェレンがベルに向き合って、「ベルはその子をお願い」と声をかける。それにベルは頷いた。

「チェレンとコハクも……お願いね」
「うん、任せてよ」
「行ってくるね」

 **

「げっ、追いかけてきやがった!」

中に逃げ込んでしまえば勝ちだと判断したのか、プラズマ団は洞穴内の岩の物陰に隠れていた。視線が絡んだ瞬間、団員の男のほうがそうこぼした。湿った洞窟の中で声がこだまする。
入り口から差し込む光で意外と洞窟の中が見える。流石に奥のほうは薄暗くてよく見えないけれど、その中に薄っすらと水面が見えて、その先に行かなくて良かったと内心ホッとした。

プラズマ団の2人組は恨めしそうにこちらを睨みながら物陰から出てくる。女の団員が短く舌打ちをして、男のほうはモンメンとタマゴが入っているらしい袋を抱え直した。

「まったく、諦めが悪いな! 我々はポケモンを解放させるために日夜戦っているというのにっ」
「そうよ! それに、あんなポケモンを使いこなせない子どもといるのでは、ポケモンがかわいそうでしょう?」
「というわけで、わざわざ来てくれたお前たちからもいただくぜ!?」

そう言って、ミネズミとコロモリを繰り出すプラズマ団。
どういう理屈!? という言葉が出るより先に、チェレンが深くため息をついた。

「寝言は寝て言ってほしいよ」
「使いこなせるとか使いこなせないとか、そういう話じゃないと思うけどな!」
「虐待とか道具扱いじゃない限り、かわいそうかどうかなんて第三者が決めていいことじゃないし……。それで強盗していい理由にはならないよね?」

わたしたちの反論に、プラズマ団の2人は鼻を鳴らす。

「ふん! ガキのくせに生意気ね!」
「軽口はバトルに勝ってから叩けっての!」
「……ハァ。コハク、こんなやつらにいつまでも相手するのもメンドーだし、僕らのコンビネーションを見せてやろうよ」
「うん、わたしたちなら勝てるよね!」

頷いて、わたしはミジュマルを、チェレンはツタージャを対峙させる。ミジュマルもツタージャも、自分たちを鼓舞するように高々と鳴き声をあげた。

「そういうわけでモンメンとタマゴ、」
「――返してもらうよ!」


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