雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 文と涙と-03-土井side


学園長からの今回の忍務は、ササガタケ城の現状と城主の安否の確認だった。
学園長はササガタケ城主とは旧知の仲だ。しかし、ササガタケは今まさに反乱が起き、落城寸前だと言う。その現状を知ったのは、1頭の鷹が届けた文らしい。

ササガタケに行く途中、彼に会った。今、知ったが彼の名は蓮夜と言うらしい。

………強い。

彼の戦闘を間近で見て、素直にそう思った。私は最初、彼の気配に気づけなかったのだ。何かの拍子に気配が漏れたのだろうが、それがなければ私は彼の存在に気づくことなく、あの場を去っていただろう。それにあの時、山田先生のところにも追手が3人現れたらしい。つまり、彼はあの怪我で10人もの敵を相手に戦っていたんだ。

流石と言うべきか。あんなにも若くして、ササガタケ忍者隊の小頭をやっていただけある。忍としての素質も才能も戦闘力の高さも申し分ない。

そんな強い彼が、ササガタケ城主から学園長宛にきた文を読んだとき、一筋の涙を零した。だが、彼は唇を噛みしめ"哀"という感情を必死に抑え込んでいるのか、それ以上涙を流そうとはしなかった。
否、泣けなかったのかもしれない。

そんな彼を見兼ね山田先生が声をかけた。内に秘めているものを全部吐き出してしまえばいい、と。
するとどうだ。彼の瞳からそれまで耐えていただろう涙がぼろぼろと溢れだした。

忍は道具。感情は必要ない。

これは、私達忍の常識。
だが、今ぐらいは………。この学園にいる時ぐらいは気にせずにいて欲しかった。感情を圧し殺しすぎて、感情を無くしてしまった奴を知っている。
だからこそ今、感情がある彼には、笑いたい時に笑って、哀しい時には泣き叫んでしかった。

『…ま、護れ…無かっ…た…、っうく…、』

私は後悔を口にする彼に近づき、そっと背を撫でた。

『許されて、いい…のでしょうか……?ひっ、く……力及ばず…彼らを死なせてしまった、俺が…。』

ああ、もう許されていいじゃないか。そんなに思い詰めないでくれ。これ以上"哀"を抱えてしまったら彼は壊れてしまうのではないか。そう思わせる程、儚くみえた。全部ここで吐き出して、身も心も軽くなって欲しい。

『……が、学園長先生。涙は…っぅ、どうしたら…止まるのでしょうか…?』

涙の止め方さえも知らない彼を、蓮夜を私達で支えてあげたいと心の底からそう思った。



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