▼ 文と涙と-02-
ぽたっと滴が文に落ちて文字が滲んだ。それは紛れもなく俺の涙で。
泣 い て い る ?俺が?
それに気づけば俺の涙はぴたりと止まってしまった。ああ、また…か…。涙が止まったという事実に俺はより一層悲しくなった。
あの日。
この時代で"生きる理由"になった両親が死んだとき俺は泣かなかった。否、泣かなかったんじゃない。泣けなかったのだ。忍だからと感情を圧し殺しているうちに忘れてしまった。"喜怒哀楽"と言うものを。
それを思い出させてくれたのは、我が主・竹成様だった。でも、どうしても泣きかたは思い出せなかった。
悲しくて哀しくて叫ぶのに涙はでない。なんて矛盾だろう。そんな俺を見て、竹成様は俺の代わりにいつも泣いてくれていたっけ。
そんな俺が、どんなに泣きたくても涙の流しかたを思い出せなかった俺が、今になって泣きそうだ。
竹成様を看取ったときにも流れなかった涙がやっと流れそうなのに。
「……泣きたいときは、泣きなさい。」
その言葉に顔を上げると、山田先生が優しく微笑んで俺に言った。
「内に秘めているものを全部、外に吐き出してしまえばいいんだ。私たちが聞こう。君の主の代わりに。」
その言葉を聞くと同時に、今の今まで止まってしまっていた涙がまた溢れだし、頬を濡らした。俺、は……。ぼろぼろと流れる涙は止まることを知らず、あとからあとから溢れてくる。
『…ま、護れ…無かっ…た…、っうく…、』
ーーー"護る"と決めた人でさえ。
『許されて、いい…のでしょうか……?ひっ、く……力及ばず…彼らを死なせてしまった、俺が…。』
ーーー二度も護れなかった俺が。
土井先生が俺に近づいてそっと背を撫でるがそんなことに気づく余裕もなく俺はただただ泣き続ける。まるでダムが決壊したかのように。
ただ、ここで困ったことが起きた。
俺は何十年も泣くことができなかった。だから、泣いたのなんて本当に久しぶりで。涙の止め方も忘れてしまっていたことに、今初めて気づいた。
『……が、学園長先生。涙は…っぅ、どうしたら…止まるのでしょうか…?』
「……思いきり泣きなさい。止まるまで泣けばいいだけじゃ。」
そう言って微笑む学園長を見ると、また涙が溢れて前が霞んだ。
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